第10話 返事

9月も終わる頃、学校では文化祭がある。


まあ、文化祭という名前でもなければ規模小さいがお祭り、まあめんどくさいので文化祭ということにする。

クラスごとに出し物を考え、調べたことを発表するクラスもあれば、お店を出すクラスもある。


幸いなことに我がクラスは発表とかいうつまらないものではなく、クッキーを作って出すことになった。前世と同じで助かる。


なぜクッキーなのか、さすがに小学生でカフェのような凝ったものは禁止されているし、熱を通すのでまあ、安全だろうという先生方の妥協である。

ちなみにお金のやり取りも禁止なので、材料などは学校から提供され無料で出すことになる。


前日に教室の飾り付けを行い、当日の朝に家庭科室を借りてみんなでクッキーを作る。

生まれてこの方料理など片手で数えられるだけしかやったことはない。


「ねえ、これどうしたらいい?」

こういう時は美咲ちゃんを頼るに限る。


「これは、こうして、こう!そうそう!」


「ありがとう!」

お昼頃になると保護者の方々がくる。


「こんにちは、これひとついただいてもいい?」


「どうぞー!」

愛想良く返事をする。


「あ、美咲も頑張ってるみたいね」

後ろでクッキーが入った袋を整理している美咲ちゃんを見て言う。

美咲ちゃんのお母さんのようだ。


実は美咲ちゃんの両親にもまだあったことはなかった。

美咲ちゃんの家で遊ぶときはいつも両親が用事があって居ない時にしか行かないからだ。


「あ、ママ!でしょー!これ美咲とこうすけが作ったやつ!こっちあげる!」


「あら、ありがとう、この子が浩介君?よろしくね、いつも美咲と遊んでくれてありがとうね」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします!いえ、美咲ちゃんはいつも優しくしてくれているので!」

お義母さんになるかもしれない人だ。ちゃんとしたところを見せないとな。


「あらー、しっかりした子ね!美咲いつもあなたのこと話してるのよ?」


「もーいいからママはあっち行って!」


「はいはい、じゃあがんばってね!」


「ありがとうございました〜」


「私にもいつもこうすけの事話してるもんねー!」

渚ちゃんがニヤニヤしながら話しかけてくる。


「もーそれ言っちゃダメってばー!」

夏休み以降2人は君呼びではなく呼び捨てにしてくるようになった。


もうそろそろいいかもしれない。

卒業までもう残り半分に近いしな。


「美咲ちゃんちょっといい?」

文化祭の後片付けの最中、美咲ちゃんを人気のないところに呼ぶ。

渚ちゃんがチラリとこっちを見ていた。


「あのね、俺は美咲ちゃんの事好きだよ」


「前にもおんなじ事言ったけど、その時は返事しなくていいって言ったよね?」


「うん」

いつも元気な美咲ちゃんは少し恥ずかしそうに頷く。


「その答えって出た?」


「・・・・・うん」


「じゃあ、改めて告白させて?」


「好きです、付き合ってください!」




「・・・・・いいよ」




いいって言ったよな!?言ったよな!?

いいよってオッケーって事だよな?!

不安になってきた、日本語がわからなくなりそう。


「ほんとに?」


「うん、私もこうすけのこと好き!」


いよっっっっっっっしゃああああああ!

きたーーーーーーー!


いや、まあうまく行くだろうとは思ってたし、意識してもらうよう頑張ってきたけど。

ほんとにうまく行くとは思わなかった。


「返事してくれてありがとう」

と言って、キスをする。


まあファーストキスはもう済ませてあるし、その後も罰ゲームとかで何度かしたけど、やはり彼女になる前とあとでは意味が違う。

2人で少しイチャイチャしたあと何事もなかったように教室に戻る。


小学生にからかわれるのも面倒だしな。

今度はニヤニヤした顔でこっちを見てくる渚ちゃんをスルーして片付けに戻る。


小学生の恋なんて本当に恋愛感情なのかどうかもわからない。

卒業で縁が切れないようにしないと。


以前聞いた時は受験はしないと言っていたが、今説得したらいけたりして。

幸い美咲ちゃんは、勉強はできる方だ。

テストの点数もいいし、受験といっても中学受験ならもしかしたらいけるかもしれない。


学費については、美咲ちゃんの家を見る感じいけそうなんだよなー、最悪俺が出してもいんだけど。

多分今の株価を見る感じなんとかなるはずだ。

ひとまず美咲ちゃんに言ってみるしかないな。


「美咲ちゃん一緒に帰ろー」


「うん、いいよー」

学校を出て美咲ちゃんの家の方に歩いて行く。

美咲ちゃんの家は途中まで方向は同じで、うちから5分くらいの近所である。


学校から見えない位置まで来たところで手を繋ぐ。

美咲ちゃんは何も言わずにぎゅっとしてくれた。

かわいいなあ。


「それでー?お2人さん言うことはー?」

ちなみに渚ちゃんの家は美咲ちゃんの家の隣なため一緒である。


「付き合うことになったよ〜」


「おめでとー!私が頑張った甲斐あったねー!」

渚ちゃんはパチパチ手を叩いて祝ってくれた。


「でも寂しくなっちゃうなー、2人が付き合っちゃうと3人で遊ぶ時間減っちゃうよねー」


「大丈夫だよ!渚も今まで通り一緒に遊ぼ?」

少し悲しそうな表情をした渚ちゃんを美咲ちゃんが宥める。


「でもやっぱりカップルと一緒だと壁を感じちゃうよ〜」

なんかわざとらしい気もする。


「そんなことないよ〜」


「いいこと思いついた!3人で付き合おうよ!」

なんか変なこと言い出したな。


「え、何言ってるの!?3人で付き合うってどういうこと!?」


「だいじょぶだいじょぶ!なんとかなるってー!それとも美咲は私こと嫌い?」


「大丈夫って言われても・・・嫌いじゃないけど、でもやっぱり3人って変だよ?」


「んー、わかった!じゃあ考えておいて!とりあえず遊ぼ!」


「んーーーー、よくわかんないけど、わかった!」

困惑していた美咲ちゃんも単純なようですぐにいつも通りに戻った。


これはうまいこといきそうだな。

てか渚ちゃんが何を考えているのかわからない・・・。


確かに昔好きって言ったことはあるが、そのせいか?

でも今俺には何も言ってこなかったしなあ。

3人で遊べなくなるのが嫌なだけか?

まあ、今考えてもしょうがない。今度2人になった時に聞いてみるか。


とりあえず、美咲ちゃんに受験について聞くことにする。

渚ちゃんは前世と同じく受験するらしい、以前教室で話していた。


「そういえば美咲ちゃんは中学受験ってする?」


「あ、気になるー!」と渚ちゃん


「ずっと2人には言ってなかったんだけどね、お父さんにお願いして受けてみることにしたの」


「え、今までそんなこと言ってなかったのにどうして?」


「こうすけはずっと塾に通ってて受験することは知ってたし、渚も受験するって夏休み前に言ってたから」


「1人違う中学じゃ寂しいし、受けてみようかなって!夏は2人とも忙しそうだったから、家庭教師もつけてもらってたんだ!」


「そうなんだ!受験する学校もおなじ?」


「そう!前2人が話してるのこっそり聞いてたから!」


「渚勉強できるのー?」


「できるよ!」

安心した。


3人で遊ぶ時もちょこちょこ受験の話してた甲斐があった。

そのあとは、いつも通り3人で遊んだあと家に帰る。


今日も日課を・・・まあいいか今日くらいはおやすみしよう。


明日見ればいいだろう、というか今日土曜日だし明後日だな。


「おやすみー!」

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