第9話 旅

8月中旬


進学塾も受験の年の夏となると勉強合宿というものが開かれる。

ホテルに泊まって4日間ほど勉強詰の時間を過ごすのだ。


「行ってらっしゃい、気をつけてね、忘れ物ない?」

母に見送られバスに乗る。


合宿きついんだよなー、前世の中でも一番勉強することになるイベントだ。

数少ない楽しみといえば最終日に遊園地に行って遊べることと、隣の席にいる聖奈ちゃんと一緒に過ごせることだけだ。

聖奈ちゃん、久しぶりな気もするが週に2回は塾で顔を合わす仲だ。


「合宿楽しみだねー!」


「勉強しに行くんだよ?」

何しに行くのかわかっていないのか聖奈ちゃんは楽しそうである。


「でも、お友達と旅行ってあんまりしたことないし楽しいでしょう?」


「んー、でも勉強しに行くのはやだなあ」

1時間ほどお喋りしながらバスに乗っているとホテルに着いた。


うわー、このホテル覚えてる、重い足を気力で動かす。

前世の合宿が少しトラウマ気味になっているのかもしれない。


自慢じゃないが俺は勉強というものが死ぬほど嫌いだ。

前世でも中学受験以降勉強という勉強をしたことがない。


「はぁ」


「ほら、手握って!一緒に行こ!」

聖奈ちゃんは天使だった。


ホテルに入るとまず説明会があり、各自の部屋にいらない荷物を置いて授業がある、普段は宴会などで使うであろう部屋にいく。

塾の他の教室の人も一緒に受けるため、知らない顔ばかりだ。


可愛い子いないか周りを見渡すがやはり隣に座っている天使が一番可愛いみたいだ。

天使の顔を見ながら授業を耐えることにする。


授業も食事のレストランでも教室ごとに固まって動くため、天使と一緒に過ごす時間が増えるのは単純に嬉しい。


晩御飯を食べた後も授業の部屋に行き自習をして寝る。

髪が濡れ、ラフな格好をしている女の子を見れるのはラッキーだ。


同じ教室の男子は不参加のため、泊まる部屋は知らない男子と一緒だった。


次の日も、朝食を食べ朝ラジオ体操をして授業、お昼を食べ授業、晩御飯を食べ自習。


起きている間はほとんど勉強時間だ。


「終わったー!!」

最終日の朝、前世も含め人生で一番の開放感を感じる。


「やったね!」

天使とハイタッチをする。

最終日の今日は遊園地に行ける。


「ねえねえ、これ乗ろうよ!」


「これ食べたーい!」

天使含め同じ教室の子と5人で一緒にまわる。

これはちゃんと記念に撮っておかないと。


「一緒に写真撮ろっか」


「いいよー!」

帰りのバスではみんな疲れ切ったのかすやすや寝ていた。

天使の寝顔も写真を撮っておく。

盗撮ではない。これも旅の記念だ。



夏休みが終わり、普段通りの日々を過ごす。

9月も中旬になると今度は小学校の修学旅行がある。

行き先は長崎で、長崎市内を周り平和学習なるものを受ける。

旅行2日目は佐世保にあるネーデルラント村というテーマパークに行く。


「行ってらっしゃい、気をつけてね、忘れ物ない?」

ついさっきも言われた気がするが1ヶ月も前のことなので気のせいだ。

美咲ちゃんと他に仲の良い女子2人、男子2人の6人の班で回る。


渚ちゃんは休み時間の間ずっとクラスに遊びに来てにいるから勘違いしがちだが別のクラスだ。


平和公園で全員で歌を歌ったりした後市内の自由行動になる。

自由行動と言っても、事前に決められた場所にしか行けないけど。


「次はこっちだよー」


「すごい、よくわかるね!」

美咲ちゃんが尊敬の眼差し(のように見える)を向けてくる。

長崎は前世での修学旅行と、何度か旅行でもきているのでなんとなく地理はわかる。


みんなを案内しながら観光を楽しむ。


「これは・・・すごいね」

班で一緒の子達は神妙な顔をしながら見て回る。

被害を受けた教会や鳥居を見た後集合場所に戻り、ホテルへ向かう。


ホテルでは班の男子3人と同じ部屋だが、美咲ちゃんたち3人も部屋に来たため6人でトランプをして過ごした。


2日目はネーデルラント村にいき、1日自由行動だ。

少し寂れてあまり人もいないテーマパークの中を6人ではしゃぎながら歩く。


ここのテーマパークも今のところ寂れているが5年後くらいに旅行会社の子会社となり、やり手の社長のおかげか活気が戻る。


まあ、経営の重荷になっていた借金の大半を債権放棄させ、残りも九州の有力企業からの出資で返済し、自治体からの援助もあったためフリーハンドで経営できたおかげとも言える。


「今の楽しかった!もう一回乗ろうよ!」


「楽しかったね!いいよ、もう一回のろっか!」

美咲ちゃんはお気に入りのアトラクションを見つけたようで、この後めちゃくちゃ乗らされた。


帰りのバスではこれまたみんなすやすや寝ていた。

小学生というのは瞬発力はすごいが持久力はないようだ。

といいながら俺も眠くなったので寝ることにする。


「ただいまー!」


「おかえり」

両親に迎えられ家に帰る。


家に入るなり速攻パソコンを開き株価チェックの時間だ。


「おお」

めっちゃ上がってる!

12万円ほどだった株価が倍の24万を超えている。


さすが本命。

まだ未確定の利益だけど、現状の資金は100万近いぞ!

売却する頃にはいくらになっているのか非常に楽しみだ。


「どうしたの?」


「なんでもないよー!」

口から漏れ出た驚きの声を聞き、両親が質問してくるがまだ秘密だ。

余計な口出しとかされても困るしな。


自分の部屋に自分のパソコンが欲しい。


早くネコネコ動画とかヨーチューブとかがみたい。

前世では中3の時に説得して買ってもらったが、現世ではもう少し早く手に入りそうだ。


一気にテンションが上がって目が冴えて寝れないかとも思ったが、さすがに小学生の体だ。

旅行帰りで疲れていたらしく早めに寝ることにする。


「おやすみー!」

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