第1話-16「推理」

 先ほどまでのどんよりとした雰囲気は消え去り、能天気な表情を浮かべる桐也。

 腰に手を当ててガハハと笑う姿はアホらしいが。

 その切り替えの早さに立花は羨ましさを感じて――目を逸らそうとして。

「こうしてお金も返ってきたんだからプレゼントもできる。笑顔が見られる!」

 財布を掲げる桐也に、やはりアホだなと思う。

 ふと、財布を見つめる目を丸めた桐也が立花の方を見て。

「どうやってお金を取り戻したの? 君は犯人もわかってるみたいだけど」

 桐也はあの日に起きたことを立花に話しただけで。

 それだけで犯人を暴いてお金まで取り戻した立花の頭の良さに感嘆する。

 その推理が気になった桐也は聞かずにはいられなかった。

「たったあれだけの情報で推理するなんてまるでシャーロック・ホームズみたいだ」

「推理小説についてよく知らないのに唯一聞いたことがある程度のシャーロック・ホームズを表現に使うな。彼は私程度が並ぶことなどできない生粋の天才だ」

 桐也なりに褒めようとしたつもりだったが、生半可な知識で逆に怒られてしまう。

 とはいえ、桐也にしてみれば立花のしたことも充分天才的なのだが。

 立花も本気で怒っているようでもなく、軽く窘める程度で、話題を戻して続けた。

「どうしてわかったのか、ということだが、小説のような大仰な推理ではなくただの論理的帰結だ」

「ろんりてききけつ……?」

 聞きなれない言葉に一瞬脳内で漢字変換が出来なかった桐也。

 アホ面を晒す桐也を立花は半眼で見て。

「まぁ別に推理でも構わないが……」

「とにかくそのろんけつなり推理なりをぜひ教えてよ!」

 勢いで押し進める桐也に、面倒なことを隠す気もなく立花は嫌な顔をするが。

 変わらない笑顔を向け続ける桐也に、これは逃げられそうにないと観念して。

 ため息一つ、

「わかった……」

 立花は話すことを決めた。


 さて――と続けて。

「まず、犯人解明までを話す前に犯人が誰かを明確にした方が話が早い」

 そう言って立花は徐に歩き出す。

「君も既に分かっていることだとは思うが――」

 立花が足を止めた先は横井の机で。

「犯人は横井だ」

 桐也に振り返りながら立花は言った。

 桐也は立花の発言を聞いて、頭で理解しようとして、理解できなかった。

 ――横井が犯人……?

 一昨日の横井の励ましを思い出しながら、桐也の頭は混乱して。

 そう言った思考が頭をめぐっている沈黙に。

「まさか気づいていなかったのか……?」

 さらに驚愕した様子の立花が口を開いて。

「私の考えを披露しても理解できないんじゃないか……?」

「いや、違うよ。意識して考えてなかっただけで。ちゃんと考えれば横井が犯人だってわかったよ」

「意識するも何も、私が横井の机に小細工を仕掛けるところを見てただろう……」

 がっくりと首を折って言う立花に、桐也は慌てて否定するが。

 立花はその否定に余計に首を曲げた。

 体から落ちそうになる首をなんとか定位置に戻しつつ、

「まぁいい。とりあえず続きを話そう。様子を見て理解できてないようならこの話は終わりだ」

「理解できるよう努力するよ」

 背筋を伸ばして、真面目な顔になって桐也が言う。

 立花も気を取り直して、話を進めていく。

「犯人が横井というわけだが、一昨日の出来事について事実がどうだったのか解説しながら話していこう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る