第2話

「あ、あぁ…」


陛下と王妃様が来る前に書類を持って来させます。

えぇ、だってお二人が入ってきたら止められますから。

そうなったら大嫌いな婚約者とおさらば出来ないでしょう。

何年も前から用意していた婚約破棄の書類を彼に差し出すと「用意が良いな」と呟かれます。

ずっと機会を窺っていましたからね。

書類を持ってきてくれた我が家の執事を見るとにっこりと満足気に微笑んでいました。


「ほら、書けたぞ」

「確認しました。これで婚約破棄は成立ですわ」


陛下達の許可が必要か?って聞かれると思いますが勿論必要です。それに関しては後で署名をもらう事にしているので問題ありません。

書いてくれるのか疑問に思う人も居そうですけど、他国の王族や有力貴族の前で婚約破棄の成立と大々的に宣言したのですからもう手遅れですよ。


「やったぞ!ようやくお前との婚約が破棄できた!」


それはこっちの台詞ですわ。

嬉しそうなモーリス。周囲の目が冷めたものであると彼は気がついていないのでしょう。まあ、お花畑の脳をお持ちの方ですからね。

モーリスは隣に立っていた女性をお姫様抱っこして、大声を出す。


「今日から私の婚約者はエズメ・フルール子爵令嬢とする!皆、よろしく頼む!」

「エズメ・フルールですわ、よろしくお願い致します!」


こいつら馬鹿だ。

全員が心の内で声を漏らした。

この国では王族に嫁ぐ事が出来るのは伯爵家以上の身分の持ち主のみ。つまりフルール子爵令嬢は条件に満たしておらず婚約は不可能です。それくらいは常識なのですけど、それすら分かっていないのがモーリスです。あとフルール子爵令嬢も同じですね。

仮に婚約出来たとしてもお姫様抱っこでぐるぐる回りながらのふざけた宣言など周りが呆れるのも当然です。


第一王子であり彼の兄であるマケール様はしっかりされた王太子様なのにどうしてこうも違うのでしょうか。

答えは簡単。

厳しく育てられたマケール様とは違い、モーリスが甘やかされて育ったせいです。

モーリスも厳しく育ててほしかったところですよ。


「モーリス様、おめでとうございます。私は帰ってもよろしいでしょうか?」

「うん?ああ、いいぞ。傷物のお前がいてはせっかくの舞踏会もつまらなくなってしまうからな」


腹が立つ。しかし王族の彼の許可を取れば帰って問題ないだろう。仮に問題になったとしても責任は許可を出したモーリスが取るでしょうからね。


「分かりました。ありがとうございます」


にっこりと微笑み、淑女の礼をする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る