嫌いな婚約者に婚約破棄された

高萩

第1話

「エリーズ・プリューム公爵令嬢!お前との婚約を破棄させてもらう!」


他国からの賓客も招いた大規模な王城主催の舞踏会。

第二王子であり、私の婚約者であったモーリス・エフォールの声が会場に響き渡った。

招かれた客人達は皆各々の動作をやめて何が始まったのだと興味深そうにこちらを見てくる。


目の前に立つ婚約者の傍には見知らぬ女性がおり、こちらを見つめてほくそ笑んでいる。ざまぁみろと言ってきそうな顔だ。


うわぁ、馬鹿丸出し…。


婚約破棄を受けた私が最初に持った印象だ。


国内貴族だけの舞踏会ならまだ良いけど、今日の舞踏会は他国からの賓客を招いている大事な場なのよ。

一体何を考えているのよ。この馬鹿は。


心の中で口汚く罵る。もちろんそれを顔に表すほど生温い教育は受けていないのだ。


私の名前はエリーズ・プリュームは手に持っていたグラスを近くの給仕に預け、扇子を広げて緩んだ口元を隠した。

洗練された動きは周囲の視線を一気に奪う。


「婚約破棄ですか…。謹んでお受け致しますわ」

「何故かって…え?今なんと言った!」

「だからお受けしますと言ったのです。今すぐに婚約破棄の手続きをしましょう!」


ぽかんと口を開き、アホ面を晒すモーリスに近づき目の前に立って微笑む。

どうやら私が婚約破棄を受けないと思っていたのでしょうけど、喜んで受けさせてもらいますよ。

だって私はモーリスが大嫌いですから。

幼い頃から私に対して酷い暴言の数々。婚約者を婚約者と思わない所業の多さ。我慢してきたのは彼が王子であり、婚約者であったから。

そもそも彼の婚約者だってなりたくてなったわけじゃありません。王妃様の推薦で無理やり婚約者にさせられたのです。王家の決定に逆らえるわけもなく大人しく従っていましたけど本当は嫌で嫌で仕方ありませんでした。

それも今日で終わりです。

たとえ出来損ないだったとしてもモーリスは王族。つまり彼の発した言葉にはそれなりの重さがあり、簡単に撤回出来るものじゃない。

よって私達の婚約破棄は九割九分の確率で成立するというものです。


「い、いや、理由は聞かないのか?」

「モーリス様は私と婚約破棄をしたいと仰ったのです。そして私はそれをお受けしました。それが全てではあり、理由を聞く必要がありますか?」

「それは……ないかな?」


何故疑問系。そしてやっぱり馬鹿ですわ。

普通は聞く必要がある以前に話すべき内容です。

まあ、この会場でこんな大事をやらかしている事自体が間違っているのですけど。


「では婚約破棄に移りましょうか」


にっこりと微笑んだ。

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