第6話 終幕


 衝撃により、多くの石が転がって凄まじい音を立てた。


 鹿児島の地に両の足を付けて立つのは、傘を両手に持つ青年だった。


 青年は、目の前の大穴に、無様な体勢で呻き声をあげる男を心配した。


「おーーーい、大丈夫?」


「なんだこれは!! こんな、、いつの間に!」


「あの宇宙人だよ。大きなあなを開けてくれたから、その塹をちょっとだけ『借りた』んだよ。でこぼこ地面の景観を借りた、『借景技法』ってやつさ」


 石の模様の大風呂敷を大穴の上にかぶせて準備していた。入口付近にいたいつわに志麻津が目を向けている間に、だ。


「その手枷の武器を使えば、例えば『見参』を発動されちゃうと、簡単に塹から逃げられちまう。何とかしてその手枷を外してもらおうと、時間ぎと口から出ま。上手くいってよかったよ」


「志と、信念はどうした!?」


「言っただろ? 宿木自在流は、しないと勝てないんだよ。交渉術、忍者の真似事。落とし穴も仕掛けるさ。信念はぶれちゃいけねぇよな。勝つために、貫き通すのがスジってもんだろ」


「運が……悪かったか」


「あ、それも違うのよ、志麻津さん」


 大穴の中で石ころにまみれ、身動きの取れなくなった今だからこそ、ゆっくりと近づける。

 いつわは大穴に落ちた男に話しかけた。


「違う……?」


「あなたが放り投げたサイコロね。あれ、六の目がたくさんあったわよね?」


「あぁ、あれさえ無ければ私は」


「それ、私のせいなの」


「……は?」


「この人と貴方、傘と枷で鍔迫り合いをしている間に、私がサイコロを六の目を上にして回っていたの。運は操作出来ないけど、サイコロの目は私みたいな花も恥じらう乙女にもちょこっと変えられるのよ。上手くいってよかった!!」


 中には二の目があったけど、ちゃーんと六の目に変えておいた。鹿児島の未来は私の手の中にあったというわけだ。


「運任せもいいけど、やっぱり未来は自分の手で変えないとね!」


 志麻津は満身創痍。深さ数メートルの穴の中で仙巌苑の石ころに埋もれ、口を閉じる他なかった。


「でも、運が良かったとしか言えないな。落とし穴に気付かれない可能性×かけるいつわの不審な動きに気付かない可能性は、6の目×3つと同じくらい少ないだろ。神はサイコロを振らない、か。針の穴を通すような、分が悪い賭けだったぜ」


「ま、いいじゃない。『吉凶剣 塹魂枷』もちゃんと手に入った事だし、運も実力のうちってことで!!」



 鹿児島県、『吉凶剣 塹魂枷』 回収!

『四十七つの大罪』、完全蒐集まで、あと46つ。




 ◆


 宇宙。

『天上天牙』スペースコロニー内、会議室にて。


「奴がやられたか」


「『饒舌』の面汚しよ」


「奴は二位だったが、実力と強さは我の方が上」


「それに、もうあいつらは『手遅れ』だろう。ラリッサの『破砕襲撃破ラブルパイル・クライシス』は、周囲一万光年の隕石をかき集め、巨大な隕石を作る技。その技の完成は、発動から大体7章分ほどかかる。一度発動させてしまえば、もう『手遅れ』」


「…………でも、そうすると日本だけじゃなくて、地球が『手遅れ』じゃね?」


「…………」


「……………………」


「お前が何とかしろよ! ラリッサよりも実力と強さが上って言ってただろ!」


「実力と強さは上だけど、巨大な隕石を何とかする決定力に欠けるんですよねぇ」


「だからお前は『饒舌』三位なんだよ!」


「じゃ、じゃあじゃあじゃあ! 先輩がなんとかしてくださいよ!」


「あいつ……! あの技だけは使うなって言っておいたのに!! あーもう!!」


「どうする……! 四絶の他の奴らや、第六連合軍にも言っておかないと、あとでバレた時我々もマズイのでは……?」


「いや、しかし……!! 追放は免れんだろうなぁ……」


「あぁ、もう『手遅れ』だ……!!」




 ラリッサの『破砕襲撃破』、地球到達まで、あと7章。




 第一章 鹿児島県  完



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