第7話

「何故、貴方はここ【九州】だけを狙うのですか?他の地にも【現人神】はいるのに」


「……ここに来る【現人神】は【火の加護】を受けた【現人神】だから」


「確かに【阿蘇】を抱える【九州】は火の加護を受けた【現人神】だけが赴任されます……貴方の狙いは【火の加護】を受けた【現人神】のみに絞られているのですね」


「だとしたら?」


「余程、【火の加護】を受けた【現人神】が憎いのですね……」


「違う……憎いわけではない。私の探している者が【火の加護】を受けている【現人神】候補だからよ」


「……【火の加護】を受けた【現人神】候補。だから貴方は【九州】の【現人神】を殺し続けるのですか、貴方の目的である、その【火の加護】を受けた【現人神】候補が赴任してくるまで」


「そういう事」


「……なら殺された【現人神】達は……」


「ただの無駄死に。私の目的の為に、死んだだけよ……お前もそのうちの一人だけど」


 ごぼりと蓮華の口から大量の血が吐き出される。彼女の胸と腹部に深々と刺さる二振りの刀。


「流石は【現人神】トップクラスの実力者。簡単には殺されてくれなかったわね」


 そう言う【神殺し】牡丹も身体中のあちこちに刀傷を受けており、左手からぽたりぽたりと血雫を垂らしていた。


「貴様ぁぁぁぁぁっ!!」


 そんな牡丹に更紗が切り掛るが、それをいとも簡単に避けた牡丹から側頭部へと蹴りを入れられ、気を失ってしまった。勝てるわけがないのである。あの蓮華さえ敵わなかった【神殺し】。西方部隊の隊長を含め、隊員達全員は何も出来ず、ただ立ち尽くしているだけであった。


「……最後に一つだけ……教えてくれませんか」


「何?」


「その【火の加護】を受けた【現人神】候補の名を……」


 最早、喋る事さえもやっとの蓮華。ぜえぜえと荒い呼吸の中、縋るように【神殺し】牡丹を見ている。


菖蒲あやめ


「……菖蒲……あぁ……知ってるわ……」


「……知っているのか?」


「えぇ……私が【現人神】になる前に一緒にいた候補生……まだ……若くて【現人神】にはなれなかったけど……あの子は……私と比べ物にならないくらい……強い……全てに……おいて……貴方でも勝てるか……分からないわ……」


「そうか」


「貴方と……菖蒲の……関係は……?」


「姉妹だ……」


「……そう……そして……出会ったら……どうするの?」


「殺す……お前達、他の【現人神】と同じ様にね」


「……姉妹なのに……?」


「姉妹だからこそ。妹の罪は、姉である私が裁く」


 牡丹のその言葉を聞いた蓮華がすぅっと瞼を閉じた。あれだけ苦しそうにしていた呼吸も止まっている。死んだのだ。それを確認した牡丹は蓮華の身体から二振りの刀を抜くと、その刀身についた血を払い、鞘へと納めた。


「……菖蒲。待っているぞ」


 そう独りごちた牡丹は、呆然と立ち竦むだけの西方部隊達をおいて、広場から姿を消した。


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悪の華~裂かれた幸せ ちい。 @koyomi-8574

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