第6話

 【吉野ヶ里】の中心にある大きな広場。そこに、純白の軍服をきた一人の女が立っている。それを遠巻きに見ている黒い軍服の女と複数の兵士たち。


「【神殺し】牡丹よ。私は貴方のように逃げ隠れなどはしません。私の首が欲しければ【吉野ヶ里】この街の大広場に来なさい。望み通り、一騎打ちをして差し上げましょう」


 純白の軍服の女、蓮華は事前に街中に流せる公共放送を使い、そう宣言していた。


 煽ったのである。


 残りの西方部隊を投入しても、無意味だと分かっている。恐らく、何の成果も上げずに全滅させられるだろう。それに【神殺し】牡丹の狙いが【現人神】である自分一人だと言う事を知っていたからだ。


 そして【現人神】である蓮華は負けぬと思っていた。【神殺し】と呼ばれている切っ掛けとなった牡丹が倒した【現人神】達は、七人いる【現人神】の中で弱かった。しかし、新たに【現人神】に選ばれた蓮華は違う。【現人神】達の中でも一二を争う実力を持っていると自負しているのだ。


 返り討ちにしてくれよう。


 そんな蓮華の立っている先にある木の陰から、一人の女が姿を現した。


 その瞬間、蓮華の身体にぞくりとした感覚が走り抜けた。


 気が付かなったのだ。


 確かに少し離れているとはいえ、【現人神】である蓮華に気付かれずに広場内に彼女が既にいた事が。


 噂以上の実力者。


 くいっと蓮華の両の口角があがる。


「貴方が【神殺し】牡丹?」


「【神殺し】……確かにそう呼ばれているみたいだけど、私が殺したのは【神】ではなく、ただの人。少しだけ他の人たちよりも強かった……ただの【人】。だから【神殺し】」なんて呼ばれる謂れはない」


「貴方がどう思おうが、残念ながら【神殺し】と言う通り名は消える事はないわ……でも、安心して。そう呼ばれた人は、今日でいなくなるから」


 蓮華と牡丹の間に一陣の風が吹き、道に落ちている葉をあっという間に連れて消えていった。


 その風で牡丹の長い黒髪がさらりと靡き、美しいその顔を一瞬だけ隠した。


 その瞬間である。


 離れていた蓮華が刀を抜き、一気に間合いを詰め、横一文字に刀を振るう。そのきっさきを鼻先一寸のところでそれを躱す牡丹もいつの間にか抜刀している。

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