第5話

「西方部隊の半数を失うとはっ!!。隊長である貴様は腹を切れ!!。死んで詫びろ!!」


 執務室内に響き渡る怒号。


 長い艶のある黒髪を後ろで一つ結びにして軍帽を被り、すらりとした長身は真っ黒の軍服に身を包み、いかにも気の強そうな眉に狐目をした女が、額に青筋をたてて西方部隊の隊長に対し怒鳴りつけているのだ。明らかに、隊長よりもその女の方が年は下であるのに関わらず。しかし、怒鳴りつけられている隊長の顔は憐れな程に青ざめ、ぶるぶると身体を震わせているだけであった。


 二人のやり取りを静かに見ていた女が……否、女と言うにはまだ早い。しかし、少女という程、幼さはない。少女から女へと移り変わりゆく丁度、そんな年頃。


 前髪を眉の上あたりで切りそろえたショートボブ。黒い軍服の女とは対象的な純白の生地に、金で縁どられた軍服。眠たそうに垂れた両目がじっと二人を見つめている。そして、つぐんでいたその愛らしい桜色の唇がゆっくりと開かれた。


「少しは落ち着いてください、更紗さらさ。相手はあの【神殺し】。失ったのが半数で済んだだけでも良くやった方です」


「しかし……蓮華れんかさま」


 更紗は、まさか、蓮華と呼ばれたその娘が止めるとは思っていなかったようである。


「……良いと言っているのです。これまで彼は【九州】のために数多くの武勲を上げて来ました。ただでさえ西方部隊の半数を失い、彼までいなくなると、この【九州】に取っては痛手です。もちろん罰は与えますが」


 と言う言葉にびくりと身体を震わせた隊長。やはりその顔は先ほどと変わらず青ざめたままである。


「分かりました……蓮華さま。隊長であるこやつの罰は後ほど」


「はい。それよりもまずは【神殺し】。反逆の徒の顔を拝見するとしましょうか?」


「それでは残りの西方部隊に【神殺し】牡丹の居場所の捜索を……」


「いえ……その必要はありません。牡丹彼女は私を待っていたのでしょう。それならば、私が出向きましょう」


 蓮華の言葉に驚きを隠せない更紗と隊長。しかし、そんな二人とは別に、無表情であった蓮華の口角がきゅっと上がった。

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