第4話

 静かだった。


 これまでの動きがなんだったのだろうかと言うほどに、静かだった。


 隊長は執務室のデスクに座り、秘書官から入れてもらった湯呑を見つめながら思っていた。


 あれほどまで暴れまわっていた牡丹の動きがぴたりと無くなったのた。【現人神】がこの【吉野ヶ里】にやってくると連絡を受けた途端に。


 【現人神】がここ【吉野ヶ里】にやってくる事に恐怖し、逃げ出したのか?


 隊長はそれを直ぐに否定した。


 それはない。それだけはない。


 牡丹彼女は既に【現人神】を殺し、【神殺し】との二つ名を付けられている。そんな【神殺し】牡丹が今更、【現人神】に恐怖し逃げ出すはずがない。


 そう……【神殺し】牡丹は【現人神】を待っている。


 しかし、腑に落ちない事がある。


 何故……【神殺し】牡丹は、この【九州】から出てないのか。


 【現人神】を狙うならば、この【九州】に留まらず、他の国にも行くはずではないのか?


 【神殺し】牡丹が【現人神】を殺して、早一年。それまで【神殺し】牡丹は【九州】に留まり、姿を消しては思い出したかの様にこの【九州】内で暴れては、また姿を消す。


 まるで早く新しい【現人神】を【九州】へ寄越せと言わんばかりに。


 そして今回の【吉野ヶ里】への襲撃。


 新しく赴任してきた【現人神】が腰を上げた。


 まだ隊長は新しい【現人神】と接見したことがない。うら若き少女だと聞く新しい【現人神】。しかし、その実力は他の【現人神】と比べても遜色がないどころか、トップクラス。


 【神殺し】牡丹にどの様な思惑があるかは分からない。だが奴の殺した【現人神】よりも実力がある、若き【現人神】相手にはどうにもならないだろう。


 隊長は湯呑のお茶をぐびりと飲み干すと、窓の外に視線を向けた。どんよりとした厚い雲に覆われ、今にも雨が降りだしそうな空。この空の下に広がる森の中に、あの【神殺し】が息を顰め、【現人神】の到着を待っている。


 早く来てくれ……そして、奴を殺して、終わらせてくれ……


 隊長はただそう思う事しか出来なかった。


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