第4話 デート?

「犬くん。ちょっといいかしら」

 校内の廊下を歩いている時のことだ。僕を見つけた神楽坂さんは歩みながら声をかけてきた。

「今週の日曜日は暇をしているかしら」

 僕は耳を疑う。休日の僕の事情を聞いてきたのは今回、初めてのことだった。これはもしかしてと期待に胸を膨らませる。当然、ここは「暇です」と答えた。

「よかった。その日、空けといてくれるかな? 一緒に来てほしいところがあるの?」

「どこに行くんですか?」

「今は言えないかな。でも、きっと喜んでもらえると思うから楽しみにして」

 これは期待をしてもいいと言うことだろうか。僕は平常心を装うが心は浮かれているに違いない。

 当日の日曜日、僕は待ち合わせの駅に三十分前に着いていた。神楽坂さんと初デートはいつも以上に髪をセットとファッション誌を参考にした服装で決めた。

 腕時計の時間を気にしていると神楽坂さんは「わっ!」と耳元で大声を出した。

「か、神楽坂さん?」

「犬くん。忠実に飼い主の帰りを待てたのね。エライ、エライ」と、神楽坂さんは僕の頭を撫でる。お約束の犬扱いだ。

 神楽坂さんの本日のファッションはジーパンにグレーのパーカーというラフな格好をしていた。普段大学で見慣れている服装とあまり変わらない。ちなみに本日のTシャツは黒猫だ。よく見るとパーカーに猫の足跡のデザインがプリントされている。やはり動物好きは服装によく現れるみたいだ。

「さて、犬くん。行きましょうか」

「あの、これからどこに行くんですか?」

「動物園よ」

 神楽坂さんとの初デートは動物園だった。確かに動物好きの神楽坂さんにとって動物園は絶好のデートスポットと言える。胸に期待を膨らませて歩いていたが、次第に僕は不安を募る。そう、動物園に向かうどころか神楽坂さんは住宅地に向かって歩いていたからだ。スマホのマップ機能で調べてもこの付近には動物園なんて存在しない。

「あの、神楽坂さん。どこに向かっているんですか?」

「うーん。この辺だったと思うけど、どこだっけ」

「もしかして迷ったんですか?」

「迷っていません。もうすぐで着くから黙って付いて来なさい」

「はい」としか言えなかった。それから五分後、神楽坂さんはある場所に立ち止まった。

「着いた。ここよ」

 神楽坂さんが示した場所は高級住宅街がそびえる中でも一際目立つ豪邸だった。家の前だけでも三つの防犯カメラが設置されている。ガレージには高級車が三台も並んでいる。残念ながら車の知識がない僕は種類までは分からない。表札には『兼近』と書かれている。少なくとも神楽坂さんの自宅ではない。

「あの、神楽坂さん。動物園というのは?」

「ここだけど」と、当然のように神楽坂さんは言う。その言葉の意味がまるで理解出来なかった。

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