第5話 訪問
「早速、行きましょう」と、神楽坂さんは何の躊躇いもなくインターフォンを鳴らした。
「はい」とすぐに女性が返事をした。
「あの、今日お伺いする約束をしていた神楽坂と言います」
「神楽坂様ですね。旦那様から聞いております。どうぞお入り下さい」
返事と共に門のロックが解除された。何も聞かされていない僕は何が何だか分からなかった。
神楽坂さんを先頭に豪邸の中へ入った。まず、玄関に入ると中年の女性が出迎えた。
「初めまして。家政婦の猫宮と言います」
猫宮さんは律儀に頭を下げた。それに釣られるように神楽坂さんと僕も頭を下げる。
「初めまして。神楽坂鈴蘭と言います。そして、こっちは犬くんです」
「犬飼です」とすぐに僕は訂正を入れる。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ。旦那様がお待ちです」
「はい。お邪魔します」
神楽坂さんは愛想よく家に上り込む。人間嫌いの神楽坂さんにとってここまでのやり取りだけでも無理をしているに違いない。人の家に上り込むほど度胸がないと思っていたけど、もしかしたら僕の勘違いかもしれない。
豪邸ともあり、当たり前のように家政婦がいる。それに廊下には高価そうな絵や壺が飾られている。間違いなく大富豪がこの先にいる。
「猫宮さん、今からこの子たちの散歩に行ってきます」
廊下に現れたのは二十代後半の若い男性だった。その背後には犬を四匹連れている。種類はバラバラだが、どれも小型犬だ。
「はい。お願いします。気をつけて下さいね」
男性が過ぎ去った後に神楽坂さんは「今の方は?」と質問をした。
「彼は服部さん。後で散歩から帰ったら紹介させて頂きます。どうぞこちらへ」
猫宮さんを先頭に長い廊下を抜けた後、一つの扉の前に立ち止まった。
「こちらです。旦那様、神楽坂さんとそのお連れの方を連れてまいりました」
「入りたまえ」
「失礼します」
扉を開けると犬がいきなり神楽坂さんに向かって突進してきた。ちなみに犬というのは僕ではなく本物の犬である。
「きゃ、可愛い」
神楽坂さんは目の色を変えて犬を抱き寄せた。その犬を抱えながら部屋に入っていくと僕は目を疑った。犬、猫、オウム、フェレット、ウサギ、カナリア、ハリネズミ、メガネザルといったありとあらゆる動物たちが出迎えた。各種類一匹ずつと言う訳ではなく数匹単位でいるのだ。そう、まさに動物園か、と言いたくなるくらいの規模だった。ようやく神楽坂さんの言う意味を理解する。
「凄い。ゾクゾクする」
神楽坂さんは顔を真っ赤にしながら興奮が抑えきれない様子だった。動物スイッチが入ってしまったようだ。
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