第2話 犬くん

 さてさて。二つ目の体質を話す前にそろそろ僕の紹介をさせてほしい。

 僕の名前は犬飼駒助。フルネームで覚える必要はない。上の名前だけでも充分だ。いや、下手をしたら覚えなくてもいいかもしれない。何故なら僕は神楽坂さんから『犬くん』と呼ばれているからだ。

 理由としては犬飼だから犬くんということだ。人間嫌いの神楽坂さんとどうして絡みがあるかと言えばまず、人間扱いをされていないところだ。

「犬くん、悪いんだけど教室に資料を置いてきちゃった。取ってきてもらえるかしら」

「はい。ただいまお持ち致します」

 神楽坂さんに言われたものを手渡すと「偉いわね。よくできたわね」と必要以上に頭を撫でて褒めた。

「あの、僕を犬と勘違いしていませんか?」

「あら、ごめんなさい。てっきり犬かと」

「僕は犬ではなく人間です」

 と、まぁこのように神楽坂さんは僕を犬扱いすることはお決まりになっていた。そのこともあり、僕は神楽坂さんとお近づきになれている訳だ。それに見た目も少し犬っぽく生まれつき茶髪で柴犬のような毛並をしている。名前も犬だし見た目も犬とあっては犬扱いされるのも無理はない。もし、僕が人間扱いされたら神楽坂さんとは親しくできていないだろう。

 神楽坂さんと呼んでいるのは察しがついている通り、僕は同じ大学の生物学科の一つ年下の後輩にあたる。同じ校内では数少ない神楽坂さんの理解者だ。

 人間嫌いで動物好きの神楽坂さんは身につけている至る所に動物が潜んでいる。

 うさぎがプリントされたTシャツ。パンダのシャープペンシル。カバンに付けられたクマのキャラクターのキーホルダー。スマホのケースは勿論何かしらの動物だが、月単位で変わっている。現在つけている動物が神楽坂さんのブームであることは最近になって分かってきた。ちなみに現在のブームハリネズミだった。

 動物好きである神楽坂さんに対して、僕はこんな質問をぶつけてみた。

「神楽坂さんの一番好きな動物はなんですか」と。

 それに対して神楽坂さんは怪訝そうに答えた。

「犬くん。あなたは犬が何種類いるか考えたことはあるかな?」

「いえ、ないですけど」

「千種類以上。その数は増え続けている。種類が違う犬同士の子供は新たな種類として増えるのよ。果たして、その数多くいる犬の中で何が好きって言われて答えられる? 答えたとしても知らない種類の犬を差し置いて好きと本当に言えるかしら。言えないわよね」

「ご、ごもっともです」

「犬くん。あなたの質問はまさにそういうことよ。好きなんて軽々しく言うものじゃないわよ」

 つまり、神楽坂さんは一つでは表せないと言うのが答えだった。言いたいことは分かるが何故、犬で例えたのだろうか。そうだ、僕が犬だからだ。いや、犬なのは名前と見た目だけで僕は人間だ。

 と、まぁ、神楽坂さんは神楽坂さんで動物好きにもプライドを持っているようだ。

 神楽坂さんと接触があるのは大学校内の生物科棟にある実験室くらいだ。ここでは様々な生物の習性や実態の研究を行なっている。調べたデータを提出することで単位が取れる訳だ。そこで僕は神楽坂さんの助手として勉学に励んでいる。

 どのようなことをするのか一つ紹介しようと思う。

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