神楽坂さんのアニマル事件簿
タキテル
ケース1 小さな目撃者
第1話 彼女の名前は神楽坂鈴蘭
まず、この物語を語る上で一番初めに語らなくてはならない人物を紹介しなくてはならない。このような出だしで申し訳ないがそれほど彼女の存在は大きいのだ。
彼女の名前は神楽坂鈴蘭。名前の文字数が多いこと以外はどこにでもいる女子大生と言える。現在、私立大学生物学科に通う二回生だ。あえて大学名等の情報は伏せさせて頂きたい。神楽坂さんの見た目は一言で表すと大人っぽく綺麗な人である。セミロングのストレートな黒髪にロングスカートがよく似合いそうな女性である。見た目だけを見れば神楽坂さんはその辺のアイドルにも引けを取らない美人とも言える。しかし、神楽坂さんは周りからチヤホヤされることはない。
昔からどれほど、美人で可愛くてもモテない人というのはいる。大概、そのような人にはモテない事情というのがある。例えば性格が悪かったり、趣味が特殊だったり、服装のセンスがなかったり、食べ方が汚かったりと見た目以外から出てくる欠点というのが存在する訳だ。それは美人で可愛い見た目以上に軽蔑するものを持っていると表現できる。しかし、神楽坂さんは見た目以外で欠点らしきものは見当たらない。神楽坂さんの場合、モテたいという気持ちは微塵もない。何故かというと神楽坂さんは人間嫌いである。人とのコミュニケーションが苦手で自ら人との接触を絶っている。とにかく人間に興味がないのだ。それだけ聞くと神楽坂さんは変わっている。だが、それ以上に変わっているものを僕は知っている。神楽坂さんは人間が嫌いだが、無類の動物好きだ。動物と触れ合う時は目が輝いている。人が変わるとも言える。そんな神楽坂さんには二つの体質があるのだ。
順に追って説明すると一つは動物に好かれること。どんな動物でも触れれば懐いてくるのだ。懐かれるとはどういったものなのか説明すると簡単に言えば動物に警戒されないということだ。動物は初見だとどうしても構えてしまう。
例えるとすれば昔、こんなことを聞いたことがある。それは神楽坂さんの幼少期の頃だ。両親と休日の公園に遊びに行った時の話。その公園には野生の鳩が集まるとされる聖地であった。パンの耳が入った袋を片手に鳩の餌やりをしていた神楽坂さんは夢中になっていた。両親も遠くで見守っていたが、神楽坂さんは嬉しそうに両親の元に戻ってきた。
「ママ、パパ。見て! 捕まえた」
神楽坂さんの右手には鳩を鷲掴みにしていることに両親は驚いた。
それもそうだ。野生の鳩を素手で捕まえようとしても普通は出来ない。勿論、大人が本気でやったとしても空に逃げられてしまうのがオチ。それなのに子供が鳩を鷲掴みにしていたら誰だって驚く。ただのマグレだろうと両親は思ったが、その後も神楽坂さんはどんな鳩でも捕まえてしまうのだ。掴まれた鳩は苦しそうに逃げようと力一杯羽ばたこうとする。それでも放そうとしなかった神楽坂さんを見かねた両親はある取り決めをした。神楽坂家では鳩を捕まえるのを禁止というルールが決められるくらい普通ではありえない事情があったそうだ。成長するにつれて神楽坂さんはどのような動物でも手懐けてしまう才能が発揮された。まるで桃太郎のきびだんごを食べさせたように。下手をしたらライオンでも手懐けることができるのではないだろうか。実際、野生のライオンと接触する機会はないので現実では絶対再現できないことはご了承願いたい。
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