第9話 - 智謀のカラス -

「レイちゃん、さっきの……」


 言いかけるとレイのほうから切り出してきた。


「ツバサっち、道中も言ったけど、あたしはツバサっちと一緒に居て楽しいかどうかで決めるよー。もちろん楽しかったら一緒に人間に戻るし。でもそれを決めるのは今じゃないかなー」


 言われて少し気持ちの整理ができてきた。思えばこれまで、自分の都合ばかりを押し売りしていた気もする。人間に戻っても、もうやりたいことがないとレイは言っていた。自分は――


「う、うん。ちょっと、先走ってたかも、ごめんね」


「いいよいいよー。んでクロエっちだけど、どする? 仲間に誘う方針には賛成だよー」


「……もう一回お願いしてみようと思う。今度はちゃんと、クロエちゃんのお話しも聞いて、話し合いたい。」


 お? という表情のレイ。ツバサがもう少し凹んでいると思っていたが意外と前向きに立ち直ったようだ。


「でもさー。あのインテリちゃんを説得とか無理っしょー、速攻論破されてハゲるし」


「そうかな? お願いは断られたけど、私たちを拒否してる感じじゃなかった気も」


「えーあれでー? ツバサっち感覚おかしいってー」


「やっぱり、難しいかな? 即答だったもんね」


 うーん、と2人して考え込んでしまう。


「そうだ、ひとまず、クロエっちの行動をしばらく見てみようよー。他のカラス仲間も、こっちに興味なさそうだったしさ、何か分かるかもー?」


 他に案もなく、そうしようという流れになりクロエの元へ向かった。クロエは先ほどの会議で、持ち場を指示されていた。場所がどこを指しているかは分からなかったが、はっきりと鳥魂の存在を認識できるクロエは、離れていても視認できる距離に居れば簡単に見つかる。



 まずは軽く食事をとってから、数キロ先の持ち場らしき場所にいるクロエの近くまで飛んで向かう。


「ちぃーっす、なにやってんのー?」


 相変わらずフランクだが、今回は先ほど熱くなってしまったツバサはひとまず聞き手に回り、レイ主体でコンタクトしてみようと少し打ち合わせた。ここは持ち前の天性の対話力に期待してみる。また尾をおおげさにピコピコしている。


「さっき会議を聞いていたでしょ、朝の縄張りの押さえよ。といっても、ここは特に競合はいない。だから私一人だし、暇ね」


「暇だったん? それじゃお話しよよー。」


「構わないわよ。といっても、さっきの今でそちらの問題は解決したのかしらね?」


「わほー、意外ー。てっきり、『あなたたちと話すことなんてないわ』とか『無駄なことはしないわ』とか言うと思ったー」


「ふっ、後者は概ね正解よ」


 お互い警戒を解いていないので個性あふれる応酬にたじたじとなってしまう。


――お話自体は無駄じゃないって思ってくれてるのかな? ん?


 500メートル先の河川上空で騒動となっている。さっきのメンバーもいた。


「始まったわね。私もあっちがよかったのだけれど、まだ信用が無いのね」


 すでに霧は晴れていた。雲もうすくなってきている。明かに数羽が密集し、戦闘の様相となってきた。


――あれは、ミサゴだ!


「ミサゴが落とした魚をこちらがつついた時に、難癖をつけられたの」


 その後も相次いで、個別にいるときにカラスの仲間が襲われた。そして、結局はあの辺りの縄張りの覇権をかけた争いに発展した。川の流れが変わるポイントで漁がしやすいということだった。相手は猛禽類のツガイ。カラス側は5羽でいっているようだ。


 ミサゴ。もはや洋名であるオスプレイという名のほうが、一般の人には知名度があるかもしれない。常に魚を輸送しているイメージだが、その魚を漁する際に見せる、垂直下降のツメを構えたフォームはすさまじく恰好が良く、ファンも多い。


――集団とはいえ、自分より大きい、しかも猛禽類と戦うなんて。


 互いの激しい雄叫びが遠くからでもよく聞こえる。5分くらいすると徐々にカラスに形勢が良くなってきた。


「カラスのあの連携ってキツそうだよねー。やられたことないけど」


 言ったそばから1羽のカラスがフラフラと落下し離脱していく。先ほど朝の会議で傷を嘆いていた彼にみえた。


「あ! ヤバイじゃん。クロエっちヘルプ! ゴー! ここはあたし達にまかせてお前は行ってくれー」


「今日はもう終わりね」


 じきにミサゴのツガイがその場から離脱していく。


 ミサゴ側に勝ちの展開はなかったが、なんとか1羽戦闘不能に持ち込んで痛み分け、というところだろうか。落ちたカラスはモビングの名手、自由にはさせられず、率先して狙われるため、必然とこういう展開になるという。


 双方かなり疲労とダメージがあるため、明日、いやしばらくは戦いはないはずだと、クロエは戦況を解説しながら分析していた。


「クロエちゃん、ほんとにあんなところに混ざりたいの?」


「……。そろそろ朝食にいくわ。そうね、2キロ先に見えるあの鉄塔のある地点。私に興味があるなら、昼過ぎに来てくれるかしら? それじゃ」


 言い終えると返事は待たず去っていてしまった。



「あ、あの草」


 本で読んだ知識を元に少々つみとった。

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