第6話 - 飛翔対決2 -

 鬼ごっこ勝負。ツバサが鬼となり追いかけ、レイが逃げる。レイの体のどこかにタッチすれば、ツバサの勝ち。展開は勝負の初日と同じように、逃げるレイにじきにツバサが追いつき、一定の間隔で追尾する形態となった。今回はやや離れ気味だ。


――数日程度で体力や技術が身に付くはずがない。私が練習したのは、よりキレイな姿勢で飛ぶこと――


 飛ぶときに常にバサバサと羽ばたきっぱなしの鳥などはいない。気流を上手に捉え、いかに羽ばたく回数を減らし飛翔できるか、かつ速度を落とさず行けるか。かつてのツバメの仲間には、たった3回の羽ばたきで50メートル以上も進む個体もいた。


 おそらくツバメの飛翔のコツはそこなのだと想定し、かつての仲間の飛翔の特徴などと思い返しながら、練習に取り組んだ。極力余分な行為を避け、レイから離されないように、高度も維持し、追尾を丁寧に行う。


「ねーねーまだ攻めてこないわけー?」


 挑発には反応しないように徹底する。着地の無い飛翔が10分を超えて来た。両者には若干の疲労も見え始める。何もなければ数時間の飛翔などワケないが、常に神経を張った勝負となれば別だ。いつ不意をついてアタックに出るかは分からない。


――――そういう作戦かー。制限時間は決めてなかったからなー。


 レイは思考し、じわりと焦りを覚える。


 相手のツバサはフェイントには一切応じてこない。単純なスタミナ勝負を挑んできたのは明白だった。種族の問題もあり、ツバメのほうが羽ばたき回数を少なく飛行できる。


 先にテクニックで無理やり勝ちを得たのはレイだ。個体の優位性というヒントに気づかれてしまったか、というのがレイの感想だった。しかしそれも仕方ない。今まで相手にしていたのは知性の低い野生動物。ツバサは元人間だ。



 時間が経過する。徐々に不規則になってきたレイの高度がいよいよ下がってきた。スタミナ切れだ。ツバサも疲労はあるが、こちらはまだ水平飛翔が可能な余力は残している。


 リスクを冒して決めにいく必要はない。何よりスタミナ切れはレイの演技の可能性もある。そういうのも得意な性格だ。油断せず、思考も最大限巡らせた。


「うっ」


 ついにが訪れた。疲労と集中力の消耗が一定に達し、レイはカクンとバランスを崩し一瞬の急降下を見せる。



 立て直すには必ず上昇動作が必要となる。仕掛ける好機を得た。一足飛びで距離を詰め、上昇の動作を取るレイの尾に一気に迫る。こちらは下降のアタック。完璧なタイミングだ。


 そして――


 アタックでタッチを決めに行った瞬間――


 レイの姿が消える。


――フェアリーステップ!


 レイは一回転し、ツバサの背後を取った。


 はずだった。


 しかし、そこにツバサの姿はなく、


ちょん――


 レイの尾に、軽い刺激が走った。



「あはは、いやーやられたよー」


 決着がついた。ツバサが見事レイの尾にタッチし、勝利。レイも素直に敗北を認めていた。終盤の展開、レイがバランスを崩したのは演技でなく本当だった。しかし最後の抵抗策として、急接近の際のフェアリーステップだけは狙っていた。


 そこでツバサは――


 アタックの際に実際にタッチは狙わず、アタックはフェイントとした。そしてフェアリーステップの初動にのみ、最大の注意を払った。。目前での一瞬の急上昇は、まるで消えたかのように見える。それがフェアリーステップの正体だ。


 そしてやはりその初動は起こった。レイの体位が瞬間的に変わり、ぐっと力を溜めた事を認識した瞬間、ツバサは全力のブレーキをかけた。


 バク転のような回転中のレイは、ツバサのブレーキに気づけず、本来は背後を取っていたはずが、全力ブレーキで前進しないツバサはそこにはおらず、さらに手前に存在していた。


 ツバメはその軽さと飛行性質から、それなりの速度からでも空中で一瞬で停止できる性能を備えている。対策として、かなりの練習を積んだ。


「ついに、やった……。レイちゃんも、すごいよ。私この数日間、本当に練習したんだ。それでもギリギリだったよ」


「まあぶっちゃけ、このルールがこっちに有利なのはマジだしねー。でも努力でなんとかしちゃうなんてビックリしたー。でも楽しめたー、約束通り、旅についていくよ!」


「あ、ありがとう」


 疲労もあったが、せいいっぱいの表現で応えた。


「ただし! これで勝ったと思ってはいけなし!」


「え」


「フェアリーステップは全3種類あるのだ!」


「ただのバク中だけにそんな大層な名前つけるわけないしー」


「は、ははは……」


 もはやハッタリか事実かも分からない。もう何種類飛翔の技があろうが驚かない。ただもうレイと真剣勝負するのはやめようとは思った。


 そしてこのフェアリーステップが、ツバサ達の危機を幾度か救うのは、まだ先の話。

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