第5話 - 飛翔対決 -

-翌日-


 前日のように笑顔のレイと、むくれっ面のツバサの両者が、同じ駐車場で向き合っていた。


「……」


「……逃げるほうが有利なのでは!?」


 開口一番、なんとも残念で情けないセリフがツバサから出てきた。えぇー、そういう結論かよー? と言わんばかりに脱力したのは、当然レイだった。


「よーし、じゃあさ、交代しようよ、あたしが鬼ね」


「えっ」


 ツバサの愚痴に対し、レイは鬼と逃げを交代しようと提案する。レイが追いかけ、ツバサが逃げる役ということだ。


「その勘違いを正してあげよう」


「むきー! ピィピィピィピィ!」


 ブーイングする。


「ああ、あと――」


「ん?」


「あたしの勝ちは、ツバサっちの、でいいよー。他はノーカン。ハンデね」


「……」


「な、な、な、なんだとーーーーーーー!」



「1秒したらどうぞ!」


 吐き捨てるように飛び立つ。ルールが若干変更となった。本人のどこかにタッチすれば、鬼の勝利という条件に対し、レイはツバサの尾にタッチしたときのみを勝利とする条件に変更した。


「あいあいさー」


 本来やる必要の無い勝負が始まった。


――怒ってちゃダメだ。冷静になろう。昨日はタッチができなかっただけで、追いつくまでは全て私が上回っていた。速度はこちらが有利、つまり逃げる側だとしても、レイちゃんの後ろを取るように飛翔すれば、負けはない。


 我に返って思考する。作戦を決めた。


 ツバサが想定通り飛翔すると、案の定、展開は徐々に逃げるツバサとレイの差が開いて行き、駐車場内を旋回しているため、やがて陸上ランナーのトラックの周回おくれのように、ツバサがレイにおいつくような形勢となっていく。


 レイは普通に追うのみで、ショートカットやフェイントなどを入れてくる様子はない。そして、ついにはツバサがレイの直後まで迫った。


「もう私が後ろを取ってる。この形勢で勝ちはないよ、降参して!」


「おおー、追いつかれちゃったかなー? じゃあそのままついでにタッチしたら、ツバサっちの勝ちでいいよー」


「……ふふふ、その手には乗らないよ」


 ここでアタックに行き、交わされたらせっかく取ったこの好ポジションも台無しだ。レイもそれを狙っての挑発に決まっている。ここまでの行程も、おそらくワザと追いつかせたのだろう。


「えーそうなん? んじゃー」



 瞬間――



 目の前のレイが消えた。


「――え?」



 レイはバク転のようにツバサの頭上で一回転し――



 そのまま真後ろをとり、ツバサの尾を嘴でちょんとつついた。



「勝ちー」



「……」



「これぞ、レイちゃんオリジナル、フェアリーステップ!」


 おそらくツバサはまさかというような表情で振り返ったのだろう。口を開けて呆然としていた。飛翔していたが、しばらくその場から動けなくなった。



-夜-


 その後は口数も少なくお開きとなり、昨日と同じ寝床に戻ったものの、思考も回らず、ショックで落ち込みはひどかった。止まり木に着地してからも、隣で元気出せーというレイの言葉が遠く耳に残る。


 完敗だった。飛翔速度で有利と決めつけていた自分が甘く、浅はかだった。レイの飛翔技術は本物だ。同じ1年の経験なのに、鳥としての実力に大きな差を実感した。


 鍛錬しなければ。


 レイのマネをしもダメだ。種族が違うため、あの独特の波形飛翔はできない。自分自身の飛び方を身に付けなければ。今後の旅も成功するはずがない。ましてこんなことでは、信頼を得られず、鳥魂集めが叶うはずもない。


――遊びで始まった勝負だけど、甘さは、捨てよう。


 翌日、レイに会って、しばらく特訓する、そしてまた勝負に付き合ってほしいと告げた。



 そして5日後。今日も快晴だ。いつしかのように、またツバサとレイは総合公園内の駐車場にて向き合っていた。


「レイちゃん、鬼ごっこのルールでまた勝負しよう。約束は……、まだ有効かな?」


「もっちろーん、楽しませてねー」


 テンションは相変わらずだが、すでに真剣なツバサの表情から、何かを感じ取っているようだった。やはりレイは直感も優秀だ、人間だったときのセンスも抜群だったに違いない。


「よーいどん!」


 思えば人間の時も、闘病生活のみで、何かに打ち込んだことは無かった。短期間だが、初めて物事に真剣に取り組んだ成果を出す舞台が始まった。

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