第2話 転生したら魔法使いになっていた

 目を開けると、気持ちのいい青空が広がっていた。

そして、穏やかな波の音。


(ここはどこだろう)


 少しクラクラする頭を押さえながら、あたしはぼんやりとした記憶を辿ろうとした。


 が、違和感がする。


「ん? あれ?」

 自分の着ている服が、なんか変だ。


「こんなに短くて、ふわふわな……!?」


 肩と胸元が剥き出しのドレスに、柔らかな青地のマントを羽織っている。皮のグローブに皮のブーツ。

ドラクエか何かゲームの魔法使いみたいな格好だ。


 見渡すと、そこはどうやら人気のない島みたいな場所だ。


「なんでこんなところにこんな格好で……」


 そういえば生まれ変わる前、神様が言ってた。

『今度の世界でのお主の役割は宮廷魔術師。魔法が使えるぞ? どうじゃどうじゃ』


 ウリウリ、と言った感じで言われたのだ。

「魔法? 本当かよ……」


 半信半疑ながら、ファイヤーとか呟いてみる。

 すると、指先にポワッと火の玉が燃え上がった。


「え、まじで!?」


 咲坂結衣。派遣OL。金なし職なし彼氏なし。


なんか、久しぶりに、ワクワクした気持ちが湧き上がってまいりました……!



毎日毎日朝から晩まで働いて、満員電車に揺られて。


そんな忙しい日々をずっと送ってきたけれど。


今、時間はたっぷりとある。


そして魔法も使える。

なんか、身体も若くなっているような気がする。


「ちょっと、色々試してみよっかな?」


見上げたら、気持ちの良い空。


「……。飛べ!」


半信半疑で言ってみたが、ふわっと身体が持ち上がった。

「え? 本当に? ちょっと待って」


あわあわと声を上げたが、身体は風船のように、ふわふわゆっくりと浮かんでいく。


「わ、怖い! ちょっと、たんま!」

とか言ってるうちに、眼下に広々とした森が広がっていく。


青い山脈、そして、煙をあげる山。(火山?)


ここはどうやら、とても大きな島のようだ。けど、小高い丘の上に、一軒ぽつんと家が立っているのが見えた。

(人がいる、のかな?)


どうやら無人島、というわけではないようだ。

「よし、ゆっくり降りて!」


呪文は、はっきり告げると効くらしい。身体は緩やかに下がり、無事しっかりと地面にの到着した。


「うん。なんか、お腹空いちゃった」


あたしはんーー、と考えた。


「ご飯を作ろう!」



カリッカリに焼きたての鮭。

ほかほかに炊き立てのご飯。

そして、油揚げと玉ねぎのお味噌汁。


材料を出して、道具を出して。

あたしはあえて時間をかけて料理をした。


だって時間はたくさんある。

やらなきゃいけないものはない。


「んーー、幸せだっ!」


魔法で出した椅子に座って、思いっきり大声を出した。


あたしの声はどこまでもどこまでもこだましていた。

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