第3話 ドラクエみたいなあたし
カリカリに焼いた鮭に、ちょろっとお醤油を垂らす。
程よく混ぜながら、黒胡麻もぱらり。
お米を柔らかく、三角に握っていきながら、鮭を詰める。
そして、最後にパリッとした海苔で包む。
お腹いっぱいなはずなのに、あたしはさっそく一つ食べてしまう。
「うーん、やっぱり美味しい!」
他に、梅干し、昆布のおにぎりの準備もできた。
あたしは頭に小さな竹のお弁当箱を思い描いてから言葉にする。
すると、その通りのものがポンっと手元に飛び出してきた!
「すごーい! これは便利!」
嬉々として詰めながら、そっと森の方を見る。
これからこのお弁当を持って、あたしはこの森に入ってみるつもりだ。
小さな肩掛け鞄と、剣、弓も準備する。(いきなり襲われたりでもしたら、頭で思い浮かべる余裕なんてないと思ったからだ)
(これじゃ、本当にドラクエみたいじゃないの……)
目的地は、先ほど見えた小さな家。
飛んでいけばいいかもしれない、とも思ったが、情報は足でつかまないとわからない。
「さ、いくわよ」
キュッと鞄の紐を握ると、あたしは一歩踏み出した。
*
キュッキュと地面を踏む、ブーツの音。
聞き慣れない鳥の声。
(ここは一体、どういう場所なんだろう?)
歩きながら、あたしは神様がもっと何か言ってなかったかを思い出そうと考えた。
(宮廷魔術師ってことは、仕えている人がいるはずよね)
ぽや〜んと、立派な宮殿が浮かんでくる。
◇
吹き抜けになった天井の前に、赤い立派なふわふわの椅子。
そこに、年若い青年が座っている。
細い金の髪がはらりと片側の目にかかっている。
なかなかハンサムな顔立ちの青年だ。
(オシアン王子……)
この国の皇子であり、あたしの幼馴染でもある相手。
『ダークシーの先に、未開の地、最果ての孤島がある。そのことは知っているな』
跪いていたあたしは、はいっと答える。
(彼の役に立ちたい)
そういう気持ちがムクムクと湧き上がってきている。
そう。
あたしが宮廷魔術師までのしあがったのは、少しでも彼のそばにいて、役に立ちたいと思ったからだった。
弟みたいな、頼りない、オシアン。
彼をこの王宮に一人にしておきたくなかった。
『孤島の調査を頼みたい』
『あたしが、ですか……?』
そうだ、とオシアンはゆっくり頷く。
『我が国は、小さく資源も少ない。あの地は太古の昔からの生き物が住んでいるともいう。調査はせなければならないのだ』
『でも』
あたしが側にいなくて平気なの? そう言いかけた言葉を飲み込んだ。
彼が望んでいるのだ。あたしが受けなくて誰がやる。
『承知しました』
あたしは、微笑んで見せたのだ。
*
「……え?」
浮かんできた記憶にびっくりして、思わず立ち止まってしまった。
「ぜんぜん、スローライフじゃないじゃーん!!!」
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