第5話『ウォルターの決意』
「あんたも酷い母親だな。息子が死ぬと分かっているのに海に落とすんだから。あっーあ、ありゃー、10分持たないな。可哀想に」
顔色の悪い男は立ち上がると、100メートル程離れた場所で、浮き沈みを繰り返しているウォルターを見て言いました。それでも小船を引き返して助けるつもりはありません。
「早く行ってください。息子が人を連れて来ますよ」
セレナはウォルターに背を向けたまま、決して後ろを振り返ろうとしません。
その微動だにしない姿を見て、顔色の悪い男は冷酷な母親もいたもんだと、呆れてしまっています。
「へっへへへ、そりゃー怖い。確かに急がねぇとな。元々、食糧の調達でやって来たんだ。あんまり寄り道してたら、船長に置いてかれちまうぜ」
ウォルターを海に置き去りにして、小船はどんどん離れていきます。もう小舟からはウォルターの姿はまったく見えなくなりました。
沈んだのか、小さ過ぎて見えなくなっただけなのか……でも、そんな事は海賊達は誰も気にしていません。もうウォルターの事は忘れてしまいました。
♦︎
「あぷっ、はぁはぁ、うっぷっ……お母様……」
遠去かる小舟をウォルターは、沈みそうな身体を何度も何度も浮かび上がらせては、見続けていました。
母親に買ってもらったお気に入りの靴も服も、海の底に沈んで行きました。
ウォルターは簡素な下着だけを身に付けて、泳ぎ続けています。
【スキル『泳ぐ』がLV1→LV2にアップしました。
泳ぐ才能がある→ほんのちょっと泳げるに成長しました。】
「あっぷっ、あっぷっ、お母様、僕、怖いよ、陸地なんて見えないよ」
ウォルターは泣きながら、小さくなった小舟を追いかけ始めました。
母親には陸地に向かって泳ぐように言われましたが、何も見えません。
とてもそんな遠くまで泳げる自信はありません。
「はぁはぁ、僕、死ぬなら、最後までお母様と一緒にいたいよ。わぷっ⁉︎」
頑張って、ウォルターはほとんど見えなくなった小舟を追い続けます。
そんなウォルターに大波が襲いかかりました。慌てて目を閉じましたが、身体が海中に沈められました。
「ごほぉ! げほぉ! げほぉ! お母様、待って、僕を置いてかないで……」
海中で海水を沢山飲んでしまったウォルターは、目を開けて、慌てて海面に急浮上します。
そして海面から飛び出すと、大きく咳き込んで苦しそうに海水を吐き出しました。
【スキル『泳ぐ』がLV2→LV3にアップしました。
ほんのちょっと泳げる→少し泳げるに成長しました。】
【NEWスキル『潜水』がLV1になりました。
潜水の才能があるを習得しました。】
【スキル『潜水』がLV1→LV2にアップしました。
潜水の才能がある→ほんのちょっとの深さと時間潜れるに成長しました。】
「お母様、お願い、僕を置いて行かないで……」
ウォルターは気づいていませんが、危機的状況下で彼のスキルは急激な成長を続けていました。
必死に見えなくなった小舟に追い付こうと、手足を頑張って動かし続けています。
本当は疲れて、今すぐに休みたいですが、休んだ瞬間に、もう二度と母親と会えなくなる事は分かっています。
♦︎
「はぁはぁ、はぁはぁ……」
明るかった空が少しずつ暗くなってきました。冷えてしまった身体が眠いと訴え続けます。
【スキル『泳ぐ』がLV4→LV5にアップしました。
まあまあ泳げる→かなり泳げるに成長しました。】
「あ、あれは……」
ウォルターのぼんやりとした視界に、海の上に浮かぶ大きな物体が見えました。
頑張って目を開けると、遠くの海面に見える小さな物体をジッーと見ました。
それは大きな黒い帆を広げた帆船でした。
「はぷっ、うぷっ、あの船にお母様が……」
ウォルターの疲れ果てていた身体に少しだけ生気が蘇っていきます。
あそこまで頑張れば、きっと母親を助ける事が出来るはずだと、あそこまで泳げば、また母親に褒めてもらえると……。
「僕がお母様を助けるんだ!」
最後の力を振り絞って、ウォルターは泳ぎ始めました。もう船に引き離される事はありません。
ジワジワとウォルターは黒い帆船に追い付いて行きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます