第4話『セレナの決意』
海賊の男達は岸辺に止めていた小舟にセレナとウォルターを乗せると、小太りの男と筋肉質な男がオールを手に持って、小舟を沖へと進ませて行きます。
「もういいだろう。奥さんはツイているぜ。国外の金持ちに飼われる事になるんだからよ。キチンと良い子にしていれば、何不自由ない生活を送れるんだ。まったく羨ましいぜ。俺も美人に生まれたかったぜ。へっへへへ」
陸地から遠くまで離れた事で安心したのでしょう。顔色の悪い男はセレナの口に押し込んでいたバンダナを抜き取りました。
そして、セレナの唾液で湿っていたバンダナの匂いをクンクンと鼻を鳴らして嗅いだ後に、イヤらしい笑みを浮かべました。
「息子をどうするつもり何ですか? 私がいればいいんですよね? だったら、息子は帰してください」
男達が海賊でこれから自分達が奴隷として売られる事は、顔色の悪い男の話し振りでセレナは気づきました。
小さな子供に労働力は期待できません。だとしたら、ウォルターも金持ちに性奴隷として売られる事になります。
そんな事は母親として絶対に認められません。セレナは何とかウォルターだけでも、陸に帰して欲しいと、顔色の悪い男に頭を下げてお願いしました。
「奥さん、それは無理だよ。ここまで来たんだ。もう船に乗せるしかないじゃないか。それとも、俺にこんな可愛い子供を海に突き落とさせて、陸まで泳いで帰れって言わせたいのか? 俺、そんな酷い事できねぇよ」
顔色の悪い男は隣に座るウォルターの肩を抱いて、セレナに向かって、ニタニタと笑って言っています。
船に乗って奴隷になるか、海に突き落として殺すか、と聞いています。
「そうですか……」
男の話を聞いたセレナは諦めたように、静かに目蓋を閉じました。覚悟を決めているようです。
このまま奴隷になって酷い目に遭って死んでしまうよりは、ウォルターの可能性を信じて海に投げ落とすべきかもしれない。息子と息子のスキルを信じるべきかもしれない。
「分かりました。では、私が突き落とします。それならいいですか?」
「おいおい、奥さん! 本気か? 死んでしまうぞ!」
顔色の悪い男が半笑いでセレナに聞いています。
まさか、そんな事を言い出すとは思っていませんでした。
「奴隷になって苦しんで死ぬよりは、今、苦しんで死んだ方がマシのはずです。お願いします。息子を解放してください」
「おいおい、マジかよ。おい、どうする? 奥さんのお願いを聞いてやるか?」
顔色の悪い男は信じられないといった感じで、仲間の海賊に聞いています。自分一人では判断できないようです。
「別にいいじゃないのか。船に連れて行っても、長い船旅になる。ガキの体力だと、奴隷になる前に死んでしまうかもしれねぇ」
「俺は反対だけど、まあ、早いか遅いかの違いなら、いいんじゃねぇのか。それに頑張れば、陸地まで辿り着くかもしれねぇからな」
筋肉質な男と小太りの男は、ウォルターを海に突き落とすのに賛成のようです。
「良かったな、奥さん。あとは奥さんの好きなようにしたらいい。あんたの子供なんだから、殺す権利がある。良かったな、優しい母ちゃんに殺してもらえるぞ」
「お母様……」
顔色の悪い男が、ウォルターの頭をゴシゴシと乱暴に撫で回しながら笑っています。
ウォルターは心配そうに母親を見ています。
「ウォルター、こっちに来て。大事な話があります」
「あっ、はい……」
ウォルターはセレナに向かって、揺れる小舟の上をフラつきながら歩いて行きます。
その姿は頼りげなく、危なげです。とても陸地まで泳げる力があるとは思えません。
「ウォルター、嗚呼、私の可愛い子。いい、ウォルター。陸地まで泳ぎなさい。そして、お母さんが悪い人達に拐われたと、大人の人達に伝えて欲しいの。出来るわね、ウォルター? 頑張って泳いで、お母さんを助けに来てね」
「う、うん……頑張ってみる」
セレナはウォルターを優しく抱き締めると、最後の別れだと思って、何度も何度も優しく頭を撫でながら、オデコやホッペに何度もキスしました。そして、ウォルターの身体を抱き上げると、そっーと海に入れました。
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