第3話『海賊の魔の手』
「ウォルター、お母さんの後ろに隠れていて……」
「う、うん……」
ザクザクと砂浜を歩く足音が近づいて来るのに、気づいたセレナは振り向きました。
三人の人相の悪い男達が、下卑た笑みを浮かべて近づいて来ていました。
「へっへへへ、ちょっとすみません。道を聞きたいんですけど」
「ええっ、はい。どちらでしょうか?」
顔色の悪い痩せた男に、セレナは不安な気持ちをまったく見せずに笑顔で答えました。
セレナの背後に隠れているウォルターは、母親の影から見える三人の男達を怖いと思って見ています。
「ご親切にどうも。港までの道を教えて欲しいですよ」
「港でしたら、ここを真っ直ぐに行って、左に曲がった所にあります。小さな港なので、船も少ないですが、漁師小屋もあると思うので分かると思いますよ」
「いやぁー、助かります。この辺に来たのは初めてで、この歳になって、迷子になるなんてお恥ずかしい限りです。可愛い息子さんですね。六歳ぐらいですか?」
「ええっ、今年で五歳になりました」
「そうですか、そうですか。それはきっと可愛いんでしょうなぁ」
「ええっ、まぁ……」
男達を港への道を教えたのに、まったく港に行こうとする気配がありません。
セレナは下手に三人の男達を刺激しないように帰ろうと考えていますが、男達はセレナとウォルターを囲むように立っています。
道を聞きたくて話しかけている訳じゃないのは、セレナはとっくに気づいています。
伸びた無精髭に、獣のようにギラギラした瞳、腰の腹巻には短剣が差し込まれています。
どう見ても、まともな生活を送っている人達には見えません。
「すみません。そろそろ主人が迎えに来る思うので失礼します。さあ、行くわよ」
「う、うん……」
セレナはウォルターの左手を握ると男達を避けるように帰ろうとしました。けれども、男達は帰ろうとするセレナの身体を掴むと、頭に巻いていた汚れたバンダナを口に強引に押し込みました。
「んんんっっ~~~⁉︎ んんっ~~⁉︎」
セレナは必死に抵抗しますが、顔色の悪い男と筋肉質の男に身体を羽交い締めにされて、力尽くで押さえつけられました。そして、ウォルターも小太りの男によって口を手で塞がれて、押さえられていました。
「静かにしろ! 息子が殺されてもいいのか!」
「んんっ⁉︎」
顔色の悪い男が暴れるセレナの耳元で怒気を含んだ声で言いました。
その途端にセレナは諦めたように抵抗をやめました。
傷つくならば、自分一人で十分だと思ったからです。でも、海賊達はそんなに甘くはありませんでした。
「へっへへへ、そうだ。大人しくしていれば、命までは取らない。ここじゃあ駄目だ。ちょっと付いて来てもらうぜぇ。変な真似をしたら、可愛い息子が痛い思いする事になるからな。へっへへへ」
「さあ、坊ちゃんも一緒に行こうか? ママと離れたくないだろう?」
「んんっ⁉︎」
セレナと一緒にウォルターも連れて行こうとしています。
このままだと、連れて行かれた先で、ウォルターが何をされるか分かりません。
セレナは必死に頭の中でウォルターを助ける方法を考えます。
寂れた漁村で、武器を持ったゴロツキから助けてくれる人はまずいません。
誰かに期待する事はすぐにやめました。ウォルターを助けられるのは自分だけです。
「安心しろよ、奥さん。子供の前で酷い事をするつもりはないから。でも、奥さんが子供に近くで見ていて欲しいなら話は別だけどよぉ。へっへへへ」
「んんっ~~⁉︎」
セレナの後ろに立っている顔色の悪い男が、セレナの背中を撫で回しながら、下品な笑みを浮かべています。
男の目的が自分の身体だと、セレナは改めて確信しました。
だとしたら、大人しく言う事を聞いていれば、ウォルターだけは助けてくれるかもしれない。
そんな淡い希望を持って、セレナはウォルターと一緒に男達に付いて行きました。
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