第2話『元王妃と第三王子の五年後』
——王宮を追放されてから、五年後。
「ウォルター、こっちよ! 頑張って!」
「はぁはぁ、はぁはぁ……」
白いワンピース水着を着た栗色髪の綺麗な女性が、腰の辺りまで海の中に入って叫んでいます。
その女性に向かって、バシャバシャと五歳ぐらいの男の子が頑張って、海の中で手と足を動かして泳いで行きます。
残り三メートル、二メートル、一メートルとバシャバシャと頑張って……ピタッと辿り着きました。
「ハァ、ハァ、ハァ……お母様、どうでしたか?」
男の子は足が海底につかないので、母親の腰にギュッと抱きついています。
ウォルターと呼ばれた少年は自分の泳ぎがどうだったのか、いつものように母親に聞いています。
「うんうん、凄く速かったわよ! 頑張ったわね!」
「うん!」
母親もいつものように、頭を優しく撫でて褒めています。
男の子は頭を撫でられるのが凄く嬉しそうです。
母親に褒められる為だけに、いつも頑張って泳いでいます。
王宮から第三王子と出て行った王妃は、第三王子の名前をクロノスからウォルターに改名して、身分を隠して、国王から隠れるように暮らしていました。
今更、王宮の生活に戻るつもりはありません。第三王子は平民として立派に育てるつもりです。
「ウォルターは優しい良い子に育つのよ」
「うん?」
元王妃は王宮のある方角を悲しそうに見つめながら、ウォルターに言いました。
八歳になった第一王子と、七歳になった第二王子の悪い噂は、王宮から遠く離れた寂れた漁村にも聞こえています。
剣聖のスキルを持つ第一王子のエウロスは、稽古と称して、王宮の兵士達を毎日のように足腰が立たなくなるまで、神剣と呼ばれる国宝の剣で叩きのめしているそうです。
賢者のスキルを持つ第二王子のテミスは、国王に代わって、国の政策を取り仕切っているそうです。
自分の年齢の何倍もある大人達を馬鹿だと、嘲笑い。少しでも意見を述べようとした者には、上級魔法で罰を与えるそうです。
そして、子供達を叱る立場にある肝心の国王は、新しく若い王妃を娶ると、第一王女、第四王子を産ませたそうです。ですが、そのスキルは期待するものではなかったそうです。
その結果、もう一度チャンスを与えるつもりで、追放した元王妃を探していました。
元王妃のセレネは、まだ二十六歳と若いです。十分に子供が産める年齢です。でも、誰とも付き合うつもりはありません。今の生活が楽しくて、幸せだからです。
それに誰かと付き合って、もしも凄いスキルを持った子供が産まれた場合は、ウォルターがまた比較されてしまいます。
スキルというもので、人の優劣を決めるなんて馬鹿げた事です。そんな小さな事なんか気にせずに、ウォルターには伸び伸びと成長して欲しいと願っています。
「お母様、もう少しだけ泳いでいいですか?」
「ええ、もちろんよ。でも、あと少しだけね」
「はぁ~い!」
流石に長時間、海に入っていたので、セレネは身体が冷えていました。
若いと思っていても、やっぱり子供の元気には勝てそうにないです。
♦︎
そんな幸せそうな親子をジッーと見つめている人相の悪い男が三人いました。
三人は海賊です。
「おい、あの女を見ろよ。凄え良い女だぞ!」
「何だよ、子持ち女かよ。旦那が近くにいるんじゃないのか?」
病人のように顔色の悪い痩せた男と小太りの男が、元王妃を見ながら話しています。
「そんなの関係ねぇよ! こんな寂れた漁村には勿体ねぇ。連れ去って売り飛ばそうぜぇ」
「ああっ? だが、ガキはどうすんだ? 一緒に連れて行くのか?」
顔色の悪い男に筋肉質の男が、ウォルターを指差しながら聞いています。
「あーあ、あれか……人質がいた方が言う事聞くだろう。一緒に連れて行こうぜぇ」
三人はセレナとウォルターが、海から上がって来るのを待ち続けました。
そして、二人が海から上がって、家に帰ろうと服を着替えようとしていた瞬間を狙いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます