第11話 正真に取り巻く恋
バドミントン部の練習も終わり、美晴の好きな人はこいつだという確証も得られぬまま、僕は体育館を離れた。
トボトボと校舎内を歩いていると知っているシルエットが目線の先に現れた。
あ…あれ美晴さんだ。
美晴は楽しげに誰かと話している。
だが、僕のこの位置からでは誰と話しているかは把握できない。
僕は立ち位置を少しずらした。
すると、美晴の対話相手が露わになった。
「えっ!?」
僕は言葉を失った。
それと同時に僕の頭の中は完全に真っ白になってしまっていた。
そう、美晴と楽しそうに喋っていたのは、「正真」だったのだ。
「嘘だろ…」
まさか…美晴の好きな人って…
いや待て、完全にそうと決まったわけではないだろう。僕は焦りを隠せない状態のまま、しっかりと正真と美晴の会話シーンを観察した。
やっぱり、美晴はとても楽しそうに正真と話している。……胸が…苦しい。
美晴のあんな楽しそうな顔を僕は見たことがなかったのだ。
もしかして…本当に美晴の好きな人って…
思考が完結するその前に僕は首をふるふると振って意識を分散させた。
そして、一回心を落ち着かせてからもう一度に美晴の方に目を移してみた。
その瞬間、ジャストタイミングだった。
美晴は正真に何かを手渡した。
正真は嬉しそうにそれをもらう。その反応を見た美晴もまた嬉しそうだ。
一体何を渡したのだろうか…
少し、自分の中で考えてみたが、そんなことどうだっていいということに気がついた。
それよりも、この状況が自分をのけ者にしているかのように感じられて-。
僕は涙をこらえるために下唇を噛んだ。
そうか…そうだな。
陰キャはいつだって蚊帳の外だ。
周りの人達はどんどん自分のフィールドを広げていって、僕たち陰キャは追いやられていくばかりだ。
僕はもう、二人の会話を見る気も失せてしまったので、この場から離れることにした。
翌朝、僕は悲しい気持ちを引っさげながらも無意識に昨日の研究の続きを始めていた。
当然、僕が真っ先に向かったのは美晴のいる場所。つまり、教室。
何よりも、僕は昨日決定的な光景を目の当たりにしてしまった。
あの光景の事実確認、答え合わせを僕は嫌でもやらなければいけない。
暗い気持ちを拭えないままに僕は、美晴の前の席に到着した。
重いカバンを机の上に置いて、覚悟と共に美晴さんの方を振り向いた。
「おはよう…美晴さん」
「おはよう」
美晴はいつもと変わらない笑顔だ。
ただ、今だけはどうしてもその笑顔を見るたびに苦しくなってしまう。
「あの…僕、美晴さんの好きな人わかっちゃいました…」
「え?…ほんと?」
美晴は目を見開いている。
「…正真………ですよね」
僕は喉元まで滞った言葉を勢いで押し出すように言った。
「………………うん」
美晴は恥ずかしそうにうつむく。
やっぱりそうだ。
僕の予想は全く、間違えていなかった。
本当に「予想」って奴はたちが悪い。
当たって欲しいと思った時には当たらないくせに、当たらないで欲しいと思った予想ばかりはポンポンとあたっていくのだ。
僕はゆっくりとしたスピードで美晴から目線をそらした。
やがて、僕は前を向く。
僕のライバルは正真か…
授業も終わり、夕日が校舎を照らす放課後。
家に帰ろうと自分の机で帰る準備を進めていると、不意に僕の目の前に柚菜が現れた。
「ねぇっ!一緒に帰ろう」
柚菜は目を輝かせながら僕をじっと見つめる。
僕は柚菜と一緒に帰ることにした。
鼻歌を歌っている柚菜を横目でみながら僕は階段を一段一段降りていく。
降りている途中で偶然にも、他の生徒たちとたむろっている正真の姿が見えた。
「柚菜、隠れてっ」
僕が柚菜の頭をぽんと叩くと、柚菜は反射的にしゃがみこんだ。
僕も当然、しゃがむ。
まだ、かろうじて正真には気付かれていなかったようだ。
僕は耳を澄まして正真達の会話を盗み聞きした。
これと言った意味はないが、なんとなく聞いといた方がいいと思ったからだ。
「あははっ、くっだらねぇ。てか、正真の好きな人って美晴じゃねーの?」
「いーや、違うよ」
「え?そうなの?」
「あぁ、俺の好きな人は他にいる」
正真は階段の手すりを背もたれにして、だらっとした体勢でそう言った。
え…?まじか…
正真には……他に好きな人がいた?
あんなにも美晴にアタックされ続けているのにも関わらず、まだあいつは美晴のことを好きになっていないのか?
世の中には本当にいろんな人がいるもんだな…
「え?だれなん?正真の好きな人って…」
正真と話しているその生徒は興味津々を体現しているかのように前のめりになって聞いた。
つまるところ、僕もそこはとても気になっている。
正真の好きな人……是非とも知っておきたいものだ。
「あぁ、しゃーねぇな。ここだけの話だぞ」
おっ、どうやら正真は好きな人を教えてくれるようだ。
「俺の好きな人は………………」
この場にいた誰もが固唾を呑んだ。
果たして、正真の口からは誰の名前が出てくるのだろうか。
それを予想する暇ももないうちに、正真は好きな人の名を放った。
「柚菜だよ」
「ええっ!」
柚菜は思わず声を上げた。
第11話 ~fin〜
突然ですが、「好きな子以外の女の子全員に好かれてしまう病」にかかってしまい、苦しいです。 @kkk222xxxooohhh00
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