第13話
ガッシャーン!!!
そんなわけがあるものか!あの女のことだ!何が入ってるかわかったものではない!
私はゴミ箱側の壁にキャンドルを強く放り投げた。キャンドルは音を立てて割れ、そのままゴミ箱に落下する。…本当は部屋の外に投げ捨てたいけれど、誰かに見られると厄介だし、これが得策だろう。
ようやく清々した。これで夜はよく眠れそうだ。私はそのままベッドに突っ込み、朝を目指して睡眠に入った。
…今、何時だろうか?部屋から、何やら物音がする。まだ意識が薄く、音の正体がわからない。私は手元の机にあるランプに手を伸ばし、灯をつけた。
「…ひっっっ」
途端、目の前が地獄に変わる。目の前の壁という壁を、大量のゴキブリが音を立てて這いまわっている。そのあまりの嫌悪と恐怖に、声が出ない。私は反射的に、自分の体の方に目をやる。手のひらや足の裏にまで大きなゴキブリが這いまわっている。感覚も生々しい。声よりも、涙が流れているのが分かる。一部のゴキブリが服の隙間から直に体に触れる。太ももの上やお腹の上を我が物顔で走り回っている。私は必死に振り解こうとするが、次々と侵入してくるゴキブリを前にもはやなす術なしだ。
…まさかあの女、私が寝ている隙に、部屋中にこいつらを散布したんじゃ…そう考えた私は床のゴキブリを踏み潰す不快感に目もくれず、扉を目指した。扉にもびっちりとゴキブリが張り付いており、見るだけで背筋が凍る。私は勇気を振り絞り、扉を開けて廊下に出た。
…結論から言えば、扉の外はさらなる地獄であった。壁という壁をゴキブリが這い回っている上、足元でもカサカサとゴキブリが走り回っている。数秒に1匹の割合で私の足をよじ登って来、空中を飛翔しているゴキブリも後をたたない。…この地獄はあの部屋だけではなかった。私は全身の不快感に涙と震えが止まらなかった。…ふと、頭上を見上げる。その時、数百匹のゴキブリの塊が頭上に落下して来て、私の顔を覆った。口の中にも入って来た気がする。私の意識は、そこで途絶えた。
…灯が見える。鳥のさえずりが聞こえる。時刻は朝なのだろう。私は夜の出来事を思い出し、身体中が震えた。ゴキブリが私の身体中を這い回る感覚が、今でも残っている。私は両手で自分の体を抱く。なんとか、気持ちを落ち着かせる。そして冷静に周りを見回す。無数にいたゴキブリは、影も形もなかった。…一体、どこに行ったんだろうか?
「あら、そんなところで寝ていては、風邪をひきますわよ?」
どこか満足気な顔で、ユリはそう言った。こちらの気持ちなど、全く知らないくせに。…この女がやったのなら一体、どんなトリックを使ったんだ、この女は…
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