第12話

 ノックに答え、尋ね人を部屋の中へ招き入れる。その人物は、ユリであった。

 入る早々、憤慨した表情を見せつけてくる。無理もないけれど。


「今日は、よくもやってくれましたわね!?」


「さあ、なんのことだか」


 無論、私だって簡単に非を認めるわけにはいかない。最初にやってきたのはそっちなのだから、そっちが誤りでもしない限り私は態度変えるつもりはない。


「…ごめんなさい」


 !?、い、今なんて…


「…お姉様のワインに薬を入れたのは私ですわ…」


「な、なんで急に…」


 何が起きている!?なんでいきなり自白を始めた!?


「…謝ります。ごめんなさい…」


 かなり怪しいけれど、それを言われては私も仕返しをする名目がなくなってしまう上、自分だけ罪を認めない卑怯者となる。


「…わ、私も悪かったわ…あんな思いをさせて…」


 腑に落ちないけれど、今はそう言うしか…


「はい!今回のことはこれで終わりですわ!」


 リリは手を叩き、明るくそう言った。さらにリリは懐から、ある物を取り出した。


「…それは?」


「キャンドルですわ。私とお姉様の、仲直りの証です。私の手作りでございましてよ?」


 彼女は得意気に、オリジナルキャンドルを見せてくる。確かに良い香りの、綺麗なキャンドルだ。見た目も可愛く、正直かなり好き。


「では早速、火をつけますわよ」


 リリは机の上までキャンドルを持っていき、服のポケットからマッチ箱を取り出した。私はただただ、事の成り行きを見つめている。

 リリがキャンドルに火をつける。細く儚げな火の手が上がり、部屋全体を独特の雰囲気が包む。これはなかなか、悪くない。


「綺麗でございましょう?私の自信作でしてよ」


 その名に違わず、本当に綺麗なキャンドルだった。私は素直に、お礼を言うことにした。


「え、ええ、ありがとう、リリ」


「ふふん」


 けれど、どうしても腑に落ちない。あの性格のリリが、ちょっとやり返されたからってここまで丸くなるなんて…


「…ねえリリ、本当に私を許してくれるの?どうして急に?」


 途端、彼女は真剣な表情になり、私の問いに答えた。


「私はお姉様の苦しむお顔が見たくて薬を盛りましたけれど、自分が同じ事をされてわかりましたの。こんな事に意味はないということに」


 だったら最初から気づいてもらいたいところだけど、まあ自分でそう気づけただけ前進か。このキャンドルに免じて、私もまた、彼女を信じることにした。


「それではお姉様、今日はもう遅いですから、早くお休みになった方が」


「ええ、そうするわ」


 リリは挨拶を告げて一礼し、部屋を後にした。

 さて、キャンドルの温かみと甘い匂いのおかげで、今日は寝付きが良さそうだ。このお返しは、きちんと考えておかないと。

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