第9話

 パーティーを明日に控え、屋敷内はその準備で大忙しだ。夫のユージも、貴族間の挨拶などで忙しく働いている。それだけ見ても、明日のパーティーにはかなりの人数が集まることがわかる。

 私は病人扱いであるのであまり手伝いには参加せず、遠目から様子を見守っていた。そんな時私の隣に、1人の人物が腰掛ける。


「お姉様ぁ、お体の方は大丈夫ですかぁ?」


 ユリだ。リハーサルでもあるのか、えらく派手な服を着ている。…一体何が目的なのか。


「ご心配なく。あなたこそそんな格好で、風邪でも引かないようにね」


「ええ、ありがとうございます」


 憎たらしく微笑みながら、返事をする。そっぽを向く私に構わず、彼女は言葉を続ける。


「しかし、本当に参加されなくてもよろしいのですか?」


「?、どういう意味?」


「せっかくいろんな男性が来られますのよ?男性経験の少ないお姉様にはチャンスですのに」


 こいつ分かっていってる。わざと私の神経を逆撫でするように。私は心を落ち着かせ、挑発に乗らないよう心がける。


「…ご心配なく」


「そうですかぁ?せっかく良いお体をお持ちですのに、男性の皆様もかわいそうだこと。お姉さまも本当は溜まってるんじゃないですかぁ?」


「…」


 なんだ?この女は乱交パーティーでもやりたいんだろうか?…次リュウゲンに会った時に、その効力を持つ宝札について相談してみるか。なんかあいつもそれなら参加するとか言い出しそうだし。私はノーサンキューだけど。


「しかしいくらお姉様でも、私の体には敵いませんけれどねぇ。それでは」


 ユリは得意気に自身の巨乳を私に見せつけ、去っていった。女の敵は、男ではなく女だと聞いたことがあるけれど、どうやら本当らしい。明日覚えていろよ全く…私は自身の胸を撫でながらそう思った。私だって別に小さい方じゃ…

 と、今度は遠目にユージの姿が目に入った。周りの美人貴族に鼻の下を伸ばしているのが、ここからでもわかる。ついさっきもスリット越しの美脚を持った女性を見た時、顔ごとその人の姿を追っていたっけ。全く情けない。男ってみんなそうなんだろうか?


「…ミラ様?」


 気に入らないような私の表情を案じたのか、メリアが私に寄ってきた。私はついさっきまでの疑問を、メリアにぶつける事にした。


「…ねぇメリア、男ってみんなああなのかしら」


 私の視線の先にいるユージの姿を見て、私の言いたいことが理解できたのだろう。メリアはそのまま返事をした。


「ええ。ですけれど、可愛らしいとは思いませんか?」


「え?どこが?」


「胸が好きだとか足が好きだとか、抱きつきたいだとか、まるで少年のようではありませんか」


「…ん~そう?」


 メリアは慈母のような暖かい表情でそう言った。その姿を見る限り、その考えは全く嘘ではなさそうに見える。


「ミラ様ももう少し時間が過ぎれば、分かりますとも」


「はぁ」


 メリアなら良い答えをくれると思っていたんだけれど、失敗だったかも…この人もなかなかの変態みたいだし…

 私は小さくため息をつき、その場を後にした。

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