第12話 天空の揺れ

一馬が天姫と暫く会わずに冷静になろうと努めていた。しかし一馬の心には穴が開いたような喪失感と寂寥感だけが残った。天姫と会えない毎日が恋人を失ったような虚しさを覚え尾を引いていた。仕事だけが彼の生きがいになっていた。


一馬の製作も恐竜ではなくなり実物大のフィギュアになっていた。彼の作る顔はどことなく天姫に似て来て、自分でもおかしな幻想に囚われていた。


と、突然館内にベルが鳴り渡った。

「地震が来ます、地震がきます。」

地震警報だった。


程なくして大きな横揺れがきて机の上のライトが落ちた。一馬は必死で作りかけの人体をかばいながら壁に掴まってしゃがみ込んだ。ビルは猛烈な勢いで揺れ続け、机やコピー機や椅子のあらゆるものを巻き込んでいた。


2分くらい経っただろうか、再びアナウンスが聞こえた。

「このビルは暫く振動が続きますが、耐震構造になっているので倒壊の心配はありません。エレベーターは現在止まっています。非常階段を利用する場合には、十分ご注意下さい。冷静な行動を取って下さい。」


やっとの思いで外を見ると、揺れてないビルもあり、このビルは古いので免震構造になって無いことがみて取れた。


「マジかよ…」


一馬は高所恐怖症もあって、揺れ続けるビルの中で生きた心地もなかった。そして辺りの電気が消えてアナウンスは続いた。

「このビルは現在停電中です。安全を確保して、しばらく復旧を待って下さい。」


一馬は咄嗟に思った。

「天姫は大丈夫か?」

その足は暗い非常階段を走り上がっていた。

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