第11話 謎の女性
「あ、あの」
言葉がつまった。なんと尋ねよう。
「あの、ゆ、幽玄ビルってどう行けばいいですか」
「ユーゲンビル?さあ、わからないんですが。ちょっと待ってくださいね、携帯で調べます」
携帯を取り出した彼女はサングラスを取った。その横顔、その指先。確かに似ている。声は似ているような、似てないような。
「この先を左に行って交差点で左折、まっすくいくとあるみたいです。大きいビルみたいだから、すぐわかるんじゃないですか」
考えてみると、一馬は近眼でしかも天姫とは暗い部屋でしかあったことがない。
「そこのビルに、ご親戚とか勤めていらっしゃらないですか。あの、凄く似ている人がいるので。」
ようやく思いついて一馬は尋ねたが、女性の反応は冷たかった。
「いいえ。急いでいるので」
そっけなく答えると女性は、足早に去って行った。
(ナンパと思われちゃったかなあ・・)
しばらく冷静になって考えを巡らしてみた。
もしかしたら、あの女性は役者さんで誰かに頼まれて、最上階で天姫の役を演じているのかもしれない。でもどんな目的で、そんな必要があるのだろう。でもビルを知らないのは本当の様子だったので、天姫を演じているのは彼女の姉妹か親戚だったのかも。
あるいは彼女は天姫のいた渋田家の子孫で、DNAを受けついていて似てるのかもしれない。他人のそら似にしては、似すぎている容姿に見えた。
一馬は天姫を誰かが演じているとは思いたくなかった。人知れずひっそりと寄り添って暮らしている彼女たちはとても純粋に思えた。だますつもりで誰かが演じじているなどとは考えられない。美しく儚く嫋やかな天姫を思い出すと、とてもそんな風には思えない。しかし反面、幽霊というリアリテイのないものに自分が誑かされているとも思いたくなかった。
一馬は意を決して再び40階のボタンを押した。しかしドアは開くことはなく、閉まったままだった。それ以後はずっと最上階の扉が開くことは無くなった。
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