第10話 すれ違い

「一馬」

有住が声をかけた。

「体の調子でも悪いのか?仕事にも身が入ってないみたいだし、いつも眠そうだし。何か痩せて来たし。一度医者に診てもらったほうがいいぞ。」

「すみません、あのあんまり寝てないんです。それだけで別に体の調子が悪いわけじゃないです。ホント、すみません」


たまたま来ていた会長にも車椅子ごしにたずねられた。

「原型のほうは進んでいるかね。」

「すいません、頑張ります」

「もっと真剣にやってくれないと困るな。うちの会社はだれにも負けないようなリアリテイを追及しているんだ。若いから夜遊びするのも良いが、本業の仕事のほうも頑張ってもらわないといかん。いつまでも動く恐竜くらいで満足していたら話にならんぞ」


会長の言葉が心に突き刺さった。

(そうだ、こんなことをしている場合じゃない)


この日40階に行くのをやめて帰ることにした一馬は、帰りの南北線の中ですれ違った女性に目が止まった。


白いブラウスにオリーブグリーンのパンツを来て颯爽と歩くサングラスの女性。その女性はあの天姫にそっくりに見えたのだ。


慌ててその女性を追った彼はエスカレーターを降りた辺りでようやく追いついた。


「あの、すみません」


女性は怪訝そうに振り返った。

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