第8話 天姫伝説

「このビルの歴史を知る本かなんかありませんか」

ビルの受付に一馬は尋ねた。


「このビル自体は分かりませんが、この辺の一帯の歴史資料でしたらこの奥の資料館にあります」


2階の奥に資料部屋があった。このビルができる時、関係者からの資料を譲り受けてできたものだ。一馬はむさぼるように資料を漁った。


それによると、このビルができる前、何件かの工場、住宅、店舗があり土地の東側の部分は神社の所有地を譲り受けていた。


神社はもともと源頼朝に仕えていた渋田利家という武家の城跡だったとあり、利家は平家討伐に拘わり手柄を得てこの地に築城したが、大永4年(1524年)の北条氏綱による関東攻略の際に、この城は後北条氏の別働隊によって焼失し、渋田家もその時に途絶えている。


城跡は渋田家を奉って八幡宮が立てられたが、30年前に大手の開発会社が買い取ってこのビルの建設予定地とした。八幡宮の宮司がビルに隣接して新たな八代を建立することを条件としたので東側の一部に立てられ隣接している。


40階建てのビルの着手に当たって開発会社社長の意向でその最上階の内部に過去の渋田城を模して天守閣を作るが、その際にいろいろ不可思議な事件が起きたため前社長の夭折のあと現在は閉鎖されている。


言い伝えによると後北条氏に責められたときに城には渋田家には天姫と言う娘がいたが自刃したとされ、天守閣にはその姫の魂が住んでいるとの噂もあるが、都市伝説で根拠は全くない。


一馬の頭は混乱した。

「1524年と言うと 300歳じゃないぞ。500歳だ。」


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