第5話 幻の童

扉が開くとまたしても、この世のものとは思えない美しさの天守閣を象った世界が広がっていた。中が暗いだけに東京の夜景が美しい。ぼうっとして40階で止まったままのエレベーターを降りて部屋に入ると、そのまま扉が閉まりエレベーターは下がってしまい、慌ててで昇降ボタンを探したがどこにも見つからなかった。


一馬はどこかに降りる階段がないかを探しながら恐る恐る部屋を探った。欄間の陰に隠れながら、そっと奥のほうに進むとどこからともなくかすかに小さな子供の歌声が聞こえてくる。


とうりゃんせ とうりゃんせ

ここはどこの ほそみちじゃ

てんじんさまの ほそみちじゃ

そっと通して くだしゃんせ


そっと覗き込むと、赤い着物を着たおかっぱの童女が3人、奥の座敷で座って歌っていた。

***


「それでどうしたんだい、一馬は」

麗奈はジョッキのビールを飲み干すと今度は真顔で聞いた。

「もういいよ、どうせ信じてくれないんだから」

「そりゃ、信じられないっしょ、そんな話。案外作家の才能あるかも」

「・・今度ばかりは本当に幽霊だあ! 俺、頭おかしくなったんだと思った瞬間から…」

「ん?」

「覚えてない」

「また?」

「そのあと警備員さんに起こされて、気が付いたら会社の前。こっぴどく怒られて。どうせ信じてもらえないんだろうから言わなかったし、2度も警備員さんに注意された事が会社に知れたら、解雇されるかもしれないし」


「ま、それが賢明だね。でもさ、一度医者に診てもらったほうが良いかも、だよ。幻覚をみるのは、なんか頭を打ったとかさ原因があると思うから」


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