第4話 謎の天守閣

暫く一馬は仕事に忙殺され、最上階の出来事は忘れていた。というより可笑しな事に関わりを持ちたくなかったのが本音である。まさか自分が見たのがお化けだと言う非科学的な意見に屈したくはなかったし、言っても誰も信じてくれずビルに勤める人に不快感を与えるだけだと思った。


夕方になると会長の木村が車いすに乗ってオフィスを訪れた。木村は80歳をとうに超えている。20年も前に専務だった宗像に社長を譲り、今はたまにオフィスに来るだけだ。一馬は面接の時に一回会ったことがあった。


「会長、お世話になってます」

挨拶すると木村は答えた。


「君は一馬君だったね。たしか造形を専攻していた・・」

「こいつにはステラノザウルスを作ってもらっているところです。なかなか筋が良くね」

横から有住が口を挟んだ。


「そうか。そいつが終わったらもうホモサピエンスを作ると良い。なかなか面白いしね」

木村はこういうと器用に車いすを動かし帰って行った。


「会長って凄いオーラがありますね」

汗ばんだ手元を見ながら一馬が言った。

「もとも科学者で天才って言われてたこともあるそうだ。だけど病気で現場を退いたんだだって。今の社長は経営者肌で変わってからのほうが会社はずっと伸びたけどね」


その日の帰り帰宅時間が遅れ、時計を見るとまたしても11時をとうに廻っていた。

「ヤバいぞ」

慌てて工具をかたずけ手を洗って、ジャケットを着るとタイムカードを押し、誰もいなくなった会社のカギを閉めてエレベーターに飛び乗った。すぐに一階を押そうとしたのだが、何故か指が動かない。


「エ、俺」

焦って指を動かしているうちに、何故か40階を押している自分に気ずいた。

抗えることもできず着くとすっと、ドアが開いた。

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