第3話 幽霊
「君、大丈夫か」
警備員たちは、一馬を揺り動かして大声で言った。
「救急車を呼んだほうがいいかね」
揺り動かされていた一馬が目を覚ました。
「あ、大丈夫ですか。」
「僕、どうしてたんでしょうか」
一馬はあたりを見回した。
「見回りをしてたら34階で倒れてたから、非常用のエレベーターで下まで運んだんですよ。今の時間エレベータは動いてないからね。入館証を持っていたからまあ許すけどこんな時間まで何してたんですか。12時までにでないと規則違反ですよ。それとも念のために救急車呼びますか」
一馬は自分の体を確認するように点検すると
「どこも悪くなさそうなので救急車はいらないと思います。あの、40階で着物を着た女の人を見たんですけど」
「おいおい、このビルの40階は初代のオーナーさんが作ったらしいけど、今は閉めてエレベータも止まらないようになってるんだよよ。着物の女の人なんて寒気がするようなことは言わないでくださいよ。滅相もない。」
もう一人の警備員も言葉をつなげた。
「いわゆる都市伝説ってやつ。うわさ話に尾ひれがついて、こちらも困っているんだから。」
***
「一馬、笑えるウ。」
新橋の焼き鳥屋で麗奈は大袈裟に笑うとビールを一気に飲みほして言った。
「それで振り返ったお姫様は、鬼の面を被っていたとかァ?」
「違うってば」
一馬はため息をついた。麗奈は大学の同級生だ。
「やっぱり信じてないんだなあ。振り返った後の顔は見ていないんだ。そのあとは記憶がなくなったから。本当なんだよ。」
「ふーん、だいたいさあ、高いところ苦手なんだからそんなところ行かなきゃいいじゃん。別に必要ないんだし」
「でも見たことないくらいの凄い綺麗な天守閣でさ。でもあの人は誰だったんだろう。だってさ、普通の着物じゃないんだよ、昔のお姫様が着るようなこう、裾の長い、引きずるような」
「はい、はい。300歳の幽霊さんが一張羅を着てたんでしょ。もう・・・やめれ。お酒が不味くなるから」
「うん。でも開いたんだよあ、40階が」
一馬はいつまでも言い続けた。
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