第132話「私は――クロウが好き」

「私は――クロウが好き」


 リヨンがこれ以上なくはっきりと言った。


「だよね。知ってた。だからこうやって聞いたわけなんだけど」

 アリスベルが苦笑する。


「まさかそんな――リヨンが俺のことを好きだったなんて――」


 そして俺はというと、聞けば誰もが驚くであろう衝撃の事実を前に、呆気に取られていた。

 どうやらアリスベルとフィオナだけは、リヨンの気持ちに気付いていたみたいだが、俺も含めておそらく他の誰も、リヨンの秘めた想いには気付いていなかっただろう。


 それこそストラスブールでさえ気付いていなかったに違いない。

 さすが何をやってもパーフェクトにこなすバリキャリのリヨン。

 自分の心を隠すのも完璧すぎた。


「クロウってさ」

「うん」


「どうしようもないバカで、サルみたいにエロくて、お調子者で、視線がいつもいやらしくて、いつもヤることしか考えてなくて、見境がなくて、すぐ仕事をさぼって執務室えっちとかしてる、それはもう最低の男よね」


「……この話の流れで、なんで俺はディスられてんの? リヨンは実は、最低のダメ男が好みなの? 泣くぞ?」


 俺もあまり詳しくはないのだが、世の中には『私がこの人の面倒を見てあげなくちゃ……!』と思って、ついついダメンズばかりを好きになってしまう、優しさと母性愛に満ち満ちた女の子もいるのだという。


 え、俺とアリスベルとの関係にそっくりだって?

 いやいや、俺はできる勇者だっての!


「でもね――」

「ん?」


「ずっと世界のために戦ってきて、魔王や超越魔竜を相手に見返りも求めずに戦い続ける、最高に素敵な勇者なの」


「お、おう。サンキュ……」


 お、おい。

 リヨンに真面目な顔して『最高に素敵な勇者』とか言われたら、さすがの俺も照れるんだが。


「身体を痛めて戦えなくなって、あることないこと捏造されて追放されても、恨むこともなく正義のために生き続けられる――そんなひたむきで一生懸命なクロウが、私はずっと大好きだった。もちろん今も大好き」


「リヨン……」


「クロウ。私はあなたが好きよ。世界で一番あなたが好き」


 それは積もりに積もった積年の想いがこもった、正面切っての愛の告白。

 リヨンは今、真剣に俺への想いを告げていた。


 だけど――。

 俺にはもうアリスベルとフィオナがいるんだ。


 だからリヨンがどれだけ素敵で、どれだけ魅力的な女の子でも。

 リヨンを女の子として好きになることはできなかった。


 俺はリヨンの気持ちに応えることはできない。

 何年も一緒に過ごしてきた仲間の想いを否定するのは本当に辛い。

 心が張り裂けそうだ。


 胸に鋭い痛みを覚えながらも、俺はリヨンにごめんと告げようとした。

 こんな風に真剣に想いを伝えられたからには、俺も曖昧にしちゃいけないと思ったから。


 だから。


「じゃあ、これからフィオナさんとリヨンさんと3人で仲良くしないとね」

「ふふっ、楽しくなりそうですね」


 アリスベルとフィオナの言葉に、俺は目を丸くするしかできなかった。


「ええと、アリスベル? フィオナ? 今のはどういう意味だ? 前に言ったよな、3人目は許さないって」


 フィオナを、アリスベルに続く2人目の恋人にした時に、俺はアリスベルと約束をした。


「そーなんだけど、リヨンさんはちょっと特別っていうか。ね、フィオナさん?」


「はい。リヨンさんは言ってみれば、私たちの前から勇者様と特別な関係にあったわけですから」


 話を振られたフィオナが淀みなく言葉を引き取る。


 どうやら2人の間には、リヨンの件に関して既に共通の理解があるようだった。

 っていうかアリスベルとフィオナって、ほんと仲いいよな。


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