第96話 リューネ

「大丈夫大丈夫」

「大丈夫なわけあるかよ……」


「ほらリューネは座学が得意だっただろ? 実はちょうど近衛騎士団の後方担当の事務ポジションが1枠空いてるんだよ。そこにリューネをねじ込んでやるからさ。剣の腕はそんなには必要ないよ」


「マジか? いやでもそれって完全に縁故採用だよな? いいのかそんなことして。王妃様に怒られるんじゃないのか?」


「怒られる?」


「騎士の間じゃけっこう有名だぞ? クロウ王は王妃アリスベルに頭が上がらないって話は」


 おいこら、いったい誰だそんな噂を流した奴は。

 いやまぁ実際に迷惑ばっかりかけてるせいで、頭は上がらないんだけどさ……。


「リューネには迷惑をかけちゃったからさ。アリスベルに怒られたっていいから、どこかで埋め合わせをしたいんだよ」


 実はリューネは昔から俺と親交があったせいで俺の支持派と見なされてしまい、俺が王都から追放されたと同時に、北方山岳地帯での国境警備という、正規の教育を受けた騎士はまずやらないであろう僻地の閑職へと追いやられていた。


 もちろん俺は王になってすぐにリューネを王都へと呼び戻していた。


「そんなこと気にしないでいいって。それに僻地勤務だったおかげで、王都壊滅の難を逃れられたわけだしな。そういう意味では良かったよ」


「そっか。でもま、せっかくの機会だし、俺の方で根回しはしておくから気が向いたら受けてくれよ。最近結婚したんだろ? 近衛騎士になれば給料は今の5倍は出るだろうからさ」


「ありがとうクロウ。……そうか、今日はわざわざこれを伝えに来てくれたわけだ。相変わらずいい奴だなクロウは」


 リューネが感極まった顔で言った。

 でもごめん。


「いや、それもあるけど本命は別」

「え?」


「ちょっと『ひよこクラブ』の軟弱男子どもに稽古をつけてやろうと思ってな」

「クロウが直々にか?」


「あいつらに剣術も教えてるんだろ? 騎士として使えそうな見所がある奴が何人かいるって、報告書で読んだぞ?」


「教えてるっていっても、まだ基礎的なことだけだよ。彼らはみな我流で、正しい剣の振り方すら知らなかったからね」


「基礎は大事だよな、基礎は。知らないより全然いいよ。俺も散々叩き込まれたし。ってわけだからその木刀借りるな。ウェーイ!」


「仮にも国王ともあろう者が、木刀を頭の上に掲げ持ってウェーイとか言うなよな……」


「いやー、国王になってからなかなか身体を動かす機会がなくて、ストレスが溜まってるんだよな。だからここでちょっとストレスを発散しようかなって思ってさ」


 ほんと、剣を握るとテンション上がるよ!

 ウェーイ!!


「別に止めはしないけど、ほどほどにな?」


「おーけーおーけー! 全部俺に任せとけって。さーてと、教官殿のお許しも出たことだし、いっちょ稽古をつけてやるか!」


「……ほどほどにな」


「おーいそこの5人組! そうおまえら! 教官殿のお許しが出た! すぐに訓練を中断して全員木刀を持って整列だ! 今から俺と1対5で模擬戦をやるぞー!」


「「「「「サー! イエッサー!」」」」」


「え? 俺をボコってもいいのかって? いいねぇ、そういう向こう見ずで元気のある奴らは俺は好きだぞ? ほら、全員同時でもいいから好きなだけかかってこい。今日は無礼講だ」


 俺は『ひよこクラブ』の軟弱男子どもに剣の稽古をつけて、片っ端からヒーヒー言わせてやった。


 ふぅ、いい汗かいたな~。

 いい気分転換になるしまた来ようっと。



(―ひよこクラブ編― 完)

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