第95話 ひよこクラブ

 その日、俺は国王肝いりで作った犯罪者収容施設・兼・軟弱男子矯正施設――通称「ひよこクラブ」を視察にやってきていた。

 100人ほどの軟弱男子ども(全て元ダーク・コンドルの構成員)が、鬼教官から軍隊式教育でビシバシしごかれている。


「こらそこ! 誰が休んでいいと言った! このバカ者めが!!」

「サー! 申し訳ありません、サー!」


「まったく貴様らは何かというとすぐに休もうとするな? そんな軟弱な考えをする男子は、我がセントフィリア王国には必要ないと何度言えば分かるのだ! 今すぐここで腹を切って死ぬか、それが嫌なら訓練場外回り10周、今すぐ走ってこい! 一番遅い無能にはさらに5周の罰走を与えるからな!」


「「「「サー! イエッサー!」」」」


「声が小さい! 貴様らは箱入りのお嬢さまにでもなりたいのか!」


「「「「サーッ!! イエッサーッ!!!」」」」」


 10名ほどの軟弱男子どもは必死に声を張り上げると、フラフラの足取りで訓練場の外周を走り出した。


「よっ、お疲れさん。調子はどう? チラッと見た感じだけど、あいつらも結構様になってきたじゃん」

 指示を出し終わったタイミングを見計らって、俺は鬼教官に声をかけた。


 ちなみにこの鬼教官は、俺が見習い騎士をしていた頃の隊舎のルームメイトだ。


 騎士養成校時代から仲が良く、騎士になってもルームメイトで。

 さらには勇者になってからもずっと交流があって、そして今回この特別な教官任務を快く引き受けてくれていた。

 名前をリューネと言う。


「これはこれは国王陛下、本日はこのような場所にわざわざご足労いただき誠にありがとうございました。あつく御礼申し上げます」


 リューネは出迎えの口上を述べると深々とお辞儀をした。


「いやいや、なに言ってんだよお前? 気でも触れたのか?」


「陛下こそ、たかだか一介の騎士に対してそのような態度では周りに示しがつきませんでしょうに」


「今は2人だけだから大丈夫だろ? っていうか俺もうさっきから笑いをこらえるの必死だから、頼むから普通にしゃべってくれよな?」


「ではお言葉に甘えて……クロウは王になっても相変わらずだな」

「人間そんなすぐに変わらないっての。リューネも元気そうで何よりだ」


 俺とリューネはがっちり握手を交わした。


「クロウは少し痩せたかい? 疲れているように見えるけど、国王の仕事は大変みたいだね」

「それがもうほんと大変でさぁ。聞くも涙、語るも涙なんだよ」


 毎日毎日ハンコとサインに明け暮れて、何かって言うと会議に呼ばれてずっと座ってて。

 復興が一段落したら楽になるからそれまで頑張ってねって言われたけど、俺もう心がくじけそうなんだけど?


「そうか、まぁ頑張れよ」

「おいおいリューネ、なんだその羽毛のごとく軽い励ましは? ちっとも心がこもってないぞ? 実はお前、俺のことが嫌いだったのか?」


「一介の騎士に、国王の苦労なんざ分かんないっての。今もこうやって普通に話しているのが不思議なくらいだぜ?」

 リューネが苦笑する。


「そうか、オッケー分かった。俺の権限で明日にでもリューネを近衛騎士に取り立ててやろう」

「……は?」


「そうしたらリューネも一介の騎士じゃなくなるもんな。そして俺の苦労を一緒に分かち合ってくれ」


「ちょ、勘弁してくれよな!? 俺程度の剣の腕で超エリートぞろいの近衛騎士が務まるわけないだろ!? 訓練で恥をかくじゃないか! 俺は勇者になったクロウとは違うんだ、分相応ってもんを十二分に理解してるっての」


 リューネはそう謙遜しているが、リューネの剣の腕は別にそこまで酷いわけではない。

 ここの教官を任せたのも俺の親しい友人ってだからだけでなく、それなりの剣の腕を見込んでのことだったし。

 もちろん超エリートの近衛騎士と比べればやや見劣りはするが。


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