第73話 めでたしめでたし。

「っていうかストラスブール、あなた奇跡は起きないから諦めろとか言ってたわよね? まずはその見る目のなさについて、今すぐ恥じ入り詫びるべきじゃないのかしら?」


 いつの間にか立ち直って、すっかりいつもの調子を取り戻したリヨンの毒舌に、


「ふぉっふぉっふぉ、奇跡は起きないから奇跡というのじゃが、ごく稀に天文学的な確率で起こるからこそ、奇跡という言葉は廃れることなく今に至るまで使われ続けておるのじゃろうの。いやはや、よい勉強になったのぅ」


 ストラスブールもいつものヘンテコ笑いをしながら、どこか煙に巻くような答えを返す。


「まったくあなたはああ言えばこう言うんだから!」


「そういうリヨン殿も泣きそうな顔で『安らかに見送ってあげましょう』と言っておったではないかの? ふぉっふぉっふぉ」


「私がいつどこで泣きそうな顔をしたって? ふん、本当にその目は節穴のようね。いい加減その老いぼれた目を労わって、老眼鏡でもかけた方がいいんじゃないかしら?」


「ふぉっふぉっふぉ、あいにくとワシの視力は2.0じゃよ」


「くっ、このじいさんときたら、ほんと何から何まで無駄に髙スペックなんだから……! わかってるけど、わかってはいるんだけど!」


「ふぉっふぉっふぉ、ワシなんぞ単に長生きしとるだけの老いぼれよ。リヨン殿もあと1000年生きればすぐに追い付くわい」


「人間もエルフも、普通は何をどうやったってそんな長生きはできないわよ! その時点でおかしいでしょ!?」


「ふぉっふぉっふぉ、不思議なこともあるものよのぅ」


「だからそれあなた自身のことでしょう!?」


「まぁまぁ、俺も無事だったんだし、超越魔竜イビルナークは討伐したし、今はそれでいいじゃないか」


 俺はいつものごとく熱くじゃれあう2人に割って入ると、話をまとめに入った。


「だよね! おにーさんの言うとおり!」

「まったくです勇者様」

「ふぉっふぉっふぉ、クロウの言うとおりじゃの」


「ちょ、ちょっと、なんで私だけが空気読めない人間みたいになってるのよ、失礼しちゃうわね!?」


「わかってるよリヨン、今回の件では今まででも一番ってくらいにすごく助かった。この先なにか困ったことがあったら何でも言ってくれ。なにを後回しにしてもリヨンのためにいの一番に駆けつけるからさ」


「う、うん、そうね、今日のところはそういうことにしておいてあげるわ。……な、なによストラスブール、言いたいことがあるなら言いなさいよ?」


「ふぉっふぉっふぉ、別に今日のリヨン殿はデレの純度が高いのぅ、などとはちっとも思っておらんから安心するがよい」


「ばっちり思ってるじゃないのよ!」


「ふぉっふぉっふぉ、顔がりんごのように赤いぞよリヨン殿」


「――っ!」


 再び始まった、いつにも増して切れ味鋭いリヨンと、それを軽々と受け流して煙に巻くストラスブールの口喧嘩がしばらく続いた後、俺たちは古代神殿遺跡を後にした。


 帰り道は、俺が戦っている間にこれでもかと結界に爆風やらなんやらを溜め込んでいたストラスブールの結界術と、あとはリヨンがものすごいやる気を出したおかげで、行き以上に楽勝だった。


 ほんとどうしようもなく頼れる最強の仲間たちだよな。



 ――とまぁそんなこんなで。


 俺は無事で。


 俺の腰も無事で。


 超越魔竜イビルナークは無事に討伐されて。


 再び世界は平和になったのでした。


 めでたしめでたし。

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