第67話 とっておきの切り札
「オラァッ!!」
超越魔竜イビルナークの巨体が20メートルほど向こうまで吹っ飛んで、落ちた。
今のカウンターの一撃はさすがに効いたのだろう。
立ち上がろうとする超越魔竜イビルナークの動きは緩慢で重く、弱々しかった。
追撃したいところだけれど、しかし俺の両腕ももう限界を迎えつつあったのだ。
ブルブルと震えていて握力もほとんど残っていない。
『破邪の聖剣』を落とさないだけで精いっぱいだった。
おそらく今の俺は戦闘力がAランク程度まで急激に落ちてしまっている。
疲労とダメージが蓄積していて、継戦能力はもうほとんど俺には残ってはいなかった。
「おにーさん! ご、ごめんなさいアタシのせいで――」
そんな俺を見てアリスベルが真っ青な顔になる。
「ははっ、気にしないでくれ。心配かけた俺が悪かったんだから。あんなの心配するなっていう方が無理だよな。悪かった、ごめんな」
だけど俺はなおも優しくアリスベルに声をかけた。
だってそうだろ?
アリスベルは何も悪くない。
好きな相手がボロボロにされてるのを見て平気な顔でいられる奴なんて、いやしないもんな。
俺がちんたら手こずっていたのが悪いんだ。
「でも――」
俺がへぼいのが悪いって言ってるのに、いまにも死んでしまいそうな顔をするアリスベルを見て――俺の中で1つの決意が固まっていた。
「しゃーねぇな、いい加減アリスベルに心配され続けるのもカッコ悪いし、ここらで本気の本気を出すとするか」
俺は何でもないことのように軽く言うと、ニヤッと悪だくみする子供みたいな顔をアリスベルへと向ける。
「えっと、おにーさん?」
ちょっと悪そうな笑みを浮かべた俺に、アリスベルが戸惑ったような視線を向けてくる。
「実は最後の切り札、とっておきがあるんだ。それを使う」
「切り札? とっておき? そんなのあるの?」
「おうよ、とっておきもとっておきだ。だからアリスベルは心配する必要なんて全然ないんだからな。だからみんなのいるところに戻って、安心して見守っていて欲しい。ここにいられるとアリスベルを巻き込んじゃうからさ」
「それって大丈夫なの? なんかヤバい技じゃないの?」
「だから大丈夫だってば。単に出し惜しみしてただけだから」
「えっと一応聞くけど、なんで出し惜しみしてたの?」
「それはもちろんアリスベルに心配してもらおうと思って、ここまで敢えて使わなかったんだ」
俺がドヤ顔でそう言うと、
「おにーさんってさ……」
アリスベルが呆れたような顔をした。
「ん?」
「おにーさんって真性のバカなの? 頭の中にプリンでも入ってるの?」
ため息をつきながら言ったアリスベルに、
「おいおい、俺はいつでも真剣だぞ。真剣にアリスベルの好感度を稼ごうとしただけだよ。アリスベルを心配させて胸をきゅーんとさせる作戦だったんだ」
俺はいつもと同じ口調で、いつもと変わらない笑顔で告げる。
「それって自作自演じゃん……」
「そうとも言うな」
「あはは、そうとしか言わないし。でも残念でした。出し惜しみは無意味です、アタシの好感度に全く変化はありませんでしたので」
「そうか……まったく変化はなかったか……」
そのストレートな物言いに俺が肩を落としてションボリ落胆してみせると、アリスベルが笑いながら言った。
「だってそうでしょ? アタシのおにーさんへの好感度はもうマックスなんだもん。だからこれ以上おにーさんが何をどうやったって、ほんのわずかだって上がりようがないんだから」
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