第60話 勇者パーティ出撃

 再結成された勇者パーティ――俺、リヨン、ストラスブール、アリスベル、フィオナの5人は、馬車に乗って移動していた。


 超越魔竜イビルナークのいる古代神殿遺跡の周辺は、活性化した魔獣たちがうようよしているはず。

 だからなるべく体力を温存するために、急ぎつつもギリギリまで馬車を使って移動する作戦だった。


 馬車の周囲にはエルフ自治領東部管区・特務警護騎士団・第1軍団の精鋭部隊が防御を固めて護衛している。

 彼らは高い練度と連携、さらには溢れんばかりの戦意によって、ここに来るまでにすでにSSランク1体を含む多数の上位魔獣を撃破していた。


 でもそれももうそろそろ限界だった。

 騎士団にはまだ死者こそでていないが、怪我人は少なくない。


 既に目的の古代神殿遺跡のかなり近いところまで踏み入っている。

 そろそろ潮時だった。


「よし、騎士団の支援はここまでにしよう。ここからは俺たち勇者パーティだけで行く」


 俺は騎士団精鋭部隊・部隊長に向かって告げた。


「我々もまだもう少し行けます」


 部隊長はそう言ってきたものの、


「だめだ、ここからエルフ自治領に戻る間にもまた魔獣と遭遇するはずだ。これ以上騎士団を引っ張るのはリスクが高くなりすぎる。帰るまでが遠足って習っただろ? 不本意かもしれないけど、ここまでにして欲しい」


 俺ははっきりとそれを断った。


「力及ばず申し訳ありませんでした」


「全然申し訳なくなんてないさ。俺たちがここまで戦闘に参加せずに力を温存できたのは、君たち特務警護騎士団・第1軍団の精鋭部隊が代わりに戦ってくれたおかげだ。ここまで支援をありがとう、後は俺たち勇者パーティに任せてくれ」


「ありがたきお言葉、もったいのうございます。それでは我らはある程度、魔獣たちの注意を引きつけつつ速やかにエルフ自治領へと帰還します。皆さま、どうかご武運を」


「ありがとう。君たちも決して無理はせず、一人も欠けることなく帰還を果たして欲しい」


「「「「「はっ!」」」」」

 俺の言葉に、騎士たちが全員そろって美しい敬礼を見せる。


 俺は彼らを一度ぐるっと見まわしてから、応えるように大きく頷いた。 


「すごい、おにーさんが勇者してる……これが世界を救った勇者クロウの姿なんだ……」


 そんな俺を見て、アリスベルが小さな声で驚いていた。


 そうして俺たち勇者パーティ5人は馬車を降りると、騎士団と別れてさらに古代神殿遺跡に向かって魔獣たちの巣窟に踏み入っていく。


 しばらく行くと魔獣たちが姿を現した。

 枝分かれした巨大な大角を持った鹿の魔獣デスアントラーだ。


「あらま、デスアントラーが群れでお出迎え? なかなか歓迎されてるわね」

「ひぃ、ふぅ、みぃ……おやおや8体もおるのぅ」


 しかもただのデスアントラーではない。


「気を付けてくれリヨン、ストラスブール。こいつらみんなSSランクにパワーアップしてるぞ」


 俺の『勇者スカウター』がすぐさま敵の戦闘力を詳細に把握する。

 それによると通常A+ランク程度のデスアントラーが、全てSSランクへと凶悪化していたのだ――!


「ふぉっふぉっふぉ、上位個体が複数体とな。敵の親玉に近づいている感がひしひしとするのぅ」


「それにしてもSSランクが8体はやりすぎだろ。俺が前衛を張る、リヨンは援護を、ストラスブールは――」


 即座に指示を出そうとした俺を、しかしリヨンが遮った。


「ここは私に任せなさいな。クロウは最後の切り札なんだから、決戦に向けて限界まで力を温存してもらわないといけないんだからね」


 そう言うと、リヨンが昔と変わらずどこからともなく『符』を取り出した。

 両手に5枚ずつ、合わせて10枚の『符』を扇のように開いて構える。


 ピッチリしたドレスのいったいどこに大量の『符』を隠し持っているのか本当に謎なんだけど、まぁ今はそれはどうでもいい。


「わかった、ここはリヨンに任せるよ」


 俺の言葉に小さくうなずきながら、リヨンは構えた10枚の『符』に力を籠めると、


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」


 それをデスアントラーにむかって一気に投げつけた!


 『符』は紙でできているとは思えないほどに勢いよく、それこそ矢のようにSSランク・デスアントラーたちに向かって飛んでいき――。

 そしてSSランク・デスアントラーたちに接触すると、大地を揺るがすほどの猛烈な大爆発を巻き起こした。


 その余波の猛烈な爆風は、俺たちまで襲ってきて――、


「ふぉっふぉっふぉ、これはまたものすごい威力じゃのぅ。さすがリヨン殿。魔王四天王・朱雀の自爆奥義よりも威力が高いのではないか?」


 しかしストラスブールが強力な防御結界を構築して無事、事なき得たのだった。


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