第57話 自称『大人の男』
「こっちのすごく可愛いキュートな女の子が俺の腰と命の恩人のアリスベル。でこっちのクールビューティな女騎士がフィオナだ」
「えっと、アリスベルです。おにーさんとは、おにーさんが森で行き倒れていた時に出会いました。よろしくお願いします」
自己紹介したアリスベルがぺこっと頭を下げて、
「私はセントフィリア王国・エルフ自治領東部管区・特務警護騎士団・第1軍団所属・討伐専任騎士・勇者担当特務騎士のフィオナ=ノースウインドです。お二人のお噂はかねがね聞きおよんでおります。どうぞお見知りおきを」
続いてフィオナが騎士らしく名乗りを上げた。
俺の担当になったことで、前よりもさらに長い名乗りになっている。
ほんとフィオナってばよく噛みもせず、こんな長い自己紹介を詰まりもせずに最後まで言えるよね。
わりと真面目にすごいと思う。
実はこっそり一人で練習とかしてたりするのかな?
ちょっと見てみたいかも。
「それでクロウ、あなたえらくこの子――アリスベルに酷いことをしたみたいね? 可哀そうに泣いてたじゃない。女の子を泣かせるなんてクズのやることよ、クズの。クズは今すぐ地獄に落ちなさい」
自己紹介が終わった途端に、リヨンが容赦なく俺を問い詰めてきた。
「別にそういうんじゃないんだって。超越魔竜イビルナークとの戦いには連れていけないって言っただけだ」
「は? 別に連れていけばいいじゃない」
あっけらかんというリヨンに、
「バカ言うなリヨン。アリスベルをそんな危険な目に合わせられるわけがないだろ」
俺はちょっとムッとしながら言葉を返してしまう。
だってそうだろ。
大切な人を危険な戦場に連れていけないのは、そんなの当然じゃないか。
「未熟なクロウ1人なら無理だろうけど、私とストラスブールがいるなら話は変わってくるでしょう?」
「ふぉっふぉっふぉ、ワシの防御結界の中におれば危険はある程度防げるじゃろうて」
「そうは言っても超越魔竜イビルナークはSSSランクなんだ。ストラスブールの防御結界は確かにすごいけど、でもそんなヤバイ敵との戦いじゃ何が起こるかわからないだろ? やっぱりアリスベルは連れていけないって」
俺はこれ以上ない正論を言ったと思ったんだけど、
「はぁ……」
リヨンはそんな俺の言葉に、あからさまにため息をついてみせたのだ。
「なんでそんな呆れた顔して俺を見るんだよ?」
「そりゃあ呆れるでしょう。あなたってばほんと女心がわかってないのね」
「……どういう意味だよ?」
「その子はね、命を賭けてでもクロウの側に居たいって思ってるのよ。まったくそんなこともわからないから、いつまでたってもクロウは童貞なのよ」
「悪いが童貞は卒業した、今の俺はもう大人の男だから」
「はっ、ちょっと女を知ったくらいでなにを偉そうに語ってくれてるのかしら。好きな女の子を泣かせた時点で、男としては未熟も未熟、心はいまだ童貞のままなのよこのクズ。それじゃ三下どころか四下、五下と心得なさいなこの六下」
「ぐ……っ」
なんか今日のリヨンはやたらと毒舌もハイテンションだな……。
「ふぉっふぉっふぉ。リヨン殿よ、久方ぶりにクロウと会えて嬉しいのはわかるが、じゃれ合うのはそれくらいにしておくがよいぞ。お嬢さんがたが呆れてしまっておるからの」
見ると、アリスベルとフィオナがぽかーんとしながら俺とリヨンのやり取りを見つめていた。
「失礼ね、じゃれ合ってなんかないわよ。あなたの目は節穴なのかしらストラスブール」
「おっと違ったのか。それはすまんのう、どうやらワシも
「その呆れるほどよく回る頭と口でなにが耄碌よ、ほんと食えない爺さんなんだから」
「ふぉっふぉっふぉ。それはそれとしてクロウよ、ワシの防御結界の強固さはお主も知っておるじゃろう? なにせSSランク・魔王四天王スザクの自爆奥義まで防ぎきったのじゃから。それでもまだ危険かのう?」
「そうよ、いじわるしないで連れていってあげなさいな。どのみちあなたが負けたら世界は終わるんだから、その時は死ぬのが早いか遅いかの違いになるだけでしょう?」
「別にいじわるをしてるわけじゃない、合理的な判断だよ」
「珍しく私とストラスブールの意見が一致したのよ? こんなこと、この先2度とないわよ? これはもう連れていく一択よね」
「ま、ワシは無理強いはせんがの。最終的に決めるのはクロウ、あくまで勇者であるお主じゃ。ワシはそれに従うまで」
「ちょっとジジイ、なに速攻で梯子外してるのよ!? 最後まで話を合わせなさいよね!?」
「ジジイとはまた酷い言われようじゃのう。そんな風だとこのまま婚期を逃してしまうのではないかのう?」
「うるさいわね!? 私がどう生きようが私の勝手でしょ!?」
たたみかけるように言ってくるリヨンとストラスブール。
まぁ最後らへんはただの口喧嘩だったんだけど。
「……」
「人生とはまっこと奥深きものじゃ。時に不合理こそが最も合理的であるのが人生の妙じゃよ」
「自称『大人の男』なんでしょ? だったら黙り込んでないで『俺についてこい』くらい言ってみなさいよ」
まったくさぁ。
この2人ときたら、今も昔もこうやって俺の背中をぐいぐいと押してくるんだから。
どこまでも仲間思いのお節介焼きでほんと困るよなもう。
俺は軽く目をつむって降参って感じで大きく息を吐くと、アリスベルに向き直った。
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