第56話 集う仲間たち

「まさかリヨンなのか?」


 俺は声がした玄関を見やった。


 すると几帳面なアリスベルが珍しく施錠し忘れたのか、半開きになった玄関から一人の妙齢の女性が俺たちをのぞき込んでいたのだ。


 それはここにいるはずのない人物であり、なによりとてもとても見覚えのある顔で――!


「久しぶりねクロウ。相変わらず女の扱いかたが下手くそで安心したわ」


 懐かしい毒舌が俺の耳を打った。


 いつも手入れを欠かさない腰まである美しい黒髪。

 透きとおるような白い肌と抜群のスタイル。


 さらには身体のラインを見せつけるような、ピッチリとしたボディコンシャスな赤いドレスを身にまとっている。

 ちなみに防御力の極めて高い特殊な素材で作られているので、ガチの戦闘用だ。


「やっぱりリヨンか! 懐かしいな、何年ぶりだ?」


 そこにいたのは、かつて一緒に勇者パーティを組んで魔王を討伐した『符術師リヨン』だったのだ――!


「あなたの腰痛のお見舞いにいったとき以来だから、2年半ぶりかしら? それとここに来たのは私だけじゃないわよ」


 リヨンはそう言うと、立つ位置を少しずらした。

 するとその背後からもう一人の来訪者が顔を出す。


「ふぉっふぉっふぉ、久しいのクロウ。どうやらその様子じゃと、長年苦しんでいた腰の痛みも引いたようでなによりじゃ」


 これまた聞き慣れたヘンテコ笑いをしてきたのは、


「ストラスブールまで! 久しぶりだな!」


 リヨンと同じく勇者パーティの元メンバーにして、1000年の長きを生きるエルフの『大仙人ストラスブール』だったのだ――!


 長い白髪と長い白ひげがトレードマークで、様々な不思議な術を使う謎多き爺さんだ。


 ってことはストラスブールが鍵開けの術で鍵を開けたんだな。

 アリスベルが玄関を施錠し忘れるわけないし。


「だけどどうして2人がここにいるんだ?」


 2人ともセントフィリア王国にいたはずなのに、それがなんでエルフ自治領にいるだろうか?


「それはもちろん超越魔竜イビルナーク復活という世界の危機に際して、勇者であるあなたが立ち上がると思って、遠路はるばる助けに来てあげたのよ。そんなことイチイチ言わせないでよね」


「そうだったのか! ありがとうリヨン、ストラスブール。2人がいてくれるなら俺も心強いよ!」


「やめてよね。わたしたちの仲でしょ、いちいちお礼なんていらないわよ。逆にうっとおしいくらいだもの」


 そっぽを向きながら言うリヨン。

 でも口ではそう言いながら、顔は全然まんざらでもなさそうなんだよな。


 つまり相も変わらずの、仲間思いな毒舌ツンデレっぷりなのだった。


「だけどよくここがわかったな? エルフ自治領にいることは、誰にも伝えてなかったはずだけど」


「ふぉっふぉっふぉ、それくらいはワシの失せ物探しの術でちょちょいとの」


「さすがはストラスブールだな、大仙人と呼ばれるだけのことはある」


 様々な術を使いこなすストラスブールにかかれば、俺の居場所を特定するなんて朝めし前ってわけか。


 と、


「えっと、おにーさん。この人たちは? 知り合いみたいだけど」


 突然の来訪者2人を相手に俺が仲良く話しているのを見て、アリスベルがさっきまでの泣き顔から一転、キョトンとした顔で俺に視線を向けてきた。


「ああごめんごめん、紹介が遅れたな。2人は俺が勇者パーティをやってたころの仲間なんだ。美人の女の人が符術師のリヨンで、エルフの爺さんが大仙人のストラスブールだ」


「リヨンよ。クロウがいつも世話になっているわね」


 え、何その、私は俺の保護者ですみたいな言い方……いやいいけどさ?


「ふぉっふぉっふぉ、ワシはストラスブールじゃ、よろしくのぅ綺麗なお嬢さんがた」


 続いてストラスブールが挨拶をする。

 こちらはいたって普通の挨拶だ。


 特徴的な変な笑い方が気になるかもだけど、特に害はないのでアリスベルもフィオナもそのうち慣れるだろう。


「符術師リヨンに大仙人ストラスブール――勇者パーティの! お目にかかれて光栄です!」


 フィオナが驚きを隠しきれないって様子で、口に手を当てて言った。


 でも、あれ……?


 フィオナが初めて俺と会った時って、もっとさらっと事務的に挨拶されたような……?

 おかしいな、俺も2人と同じで勇者パーティのメンバーなんだけどな?


 って、ああそうか。

 あの時は俺が全裸で玄関まで出ていったから、それどころじゃなかったんだな。


 すっかり忘れてたよ、ははは。


 うん。

 あの一件がバレたらリヨンに何を言われるかわかったもんじゃない。


 俺は言葉責めされて気持ちよくなる特殊な趣味は持ち合わせていないので、フィオナには後でしっかり口止めしておこう。


 俺は内心の動揺を悟られないようにあくまで自然体を装いながら、今度は逆にアリスベルとフィオナを紹介する。


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