彼女だから。

@kei-zin

第一話

『付き合ってほしい』

マサヤ君との通話でそう言われたとき、私は少し間を開けて、「はい」と答えた。


うれしかった。ほんとうに。


最初は、ほかの仲間たちと一緒に集まっていたが、好きなアーティストが同じだったり、お互いの知らないバンドを教えあったりするうちに、いつしか二人での時間が増えていた。


LINEを交換し、一日中通話した。ビデオ通話もつないだ。通話したまま寝てしまった。うるさいと親に怒られた。それでもやっぱり、マサヤ君と話すのが楽しかった。


24歳の社会人のマサヤ君と出会ったのは、オンラインゲームだった。


高校に入学すると思ったら、世間はそれどころではなくなっていた。

大勢で集まるな。

大声でしゃべるな。

マスクをしろ。

外に出るな。


人付き合いが苦手な私は、入学して友達ができるか不安だった。そんな中、今までの生活ができなくなる、いつ元に戻るかわからない、という不安もあり、毎日眠れなかった。


現実逃避のためゲームをしていると、そんな時、マサヤ君と出会った。


ずっと不安だった私を支えてくれた彼に、私は惹かれていた。好きだった。今でも大好き。


不安になって泣いてしまった私を、やさしく慰めてくれたマサヤ君。一度ツボに入るとなかなか笑いが収まらないマサヤ君。お酒が好きなマサヤ君。私をもっと知りたいと、色んな、時には恥ずかしい写真をせがんできたマサヤ君。


いつからか、マサヤ君の仕事が忙しくなったということで、通話の頻度が減った。彼からLINEがくることが減った。返信が減った。


おかしいな、とは思った。忙しいんなら仕方がない、と思っても、やっぱり気になって勉強ができない。


ある日『会いたい。大好き』と送ってみた。『付き合ってるなら、彼女なんだから、当たり前だよね?』と。


優しいマサヤ君は、絶対会ってくれる。忙しいなら、私はいくらでも待つ。だって彼女だから。


返信は、来なかった。

代わりに、マサヤ君はトークルームを抜けた。

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