夏の話

@takonuki

第1話

暑苦しい夏。

蝉の声がする。

君の首筋に雫が伝う。

艶のある黒髪が、風に吹かれている。

暑さで鼓動が早くなる。





梅雨の時期が終わり、暑い日々が続くようになってきた。

皆、学期最後のテストに向けて、勉強している。

静かな教室には、よく蝉の声が聞こえる。

「私、そういうの気にしなーい!!」

静寂を切り裂いたのは、コソコソと喋っていた女子だった。

クラスの中心人物である、堀田栞。

「私はー、女の子が、女の子を好きでも、全然変だと思わないなー。逆にー、普通じゃない?」

周りの女子は、凄いよー。と、言っている。

堀田栞は、全然凄くないよーと、返した。



しばらくして、女子に人気のある、河野翔が、堀田栞に声をかけた。

堀田さん。と、河野翔が軽く声をかけた。

なぁに?と、堀田栞は言った。

「さっきの話、聞こえちゃって。

堀田さんは、良い人なんだね。

俺、同じ立場だったら、あんなこと言えないな。」

「全然!!普通だよー。

今は、同性同士で恋愛するなんて、普通だよ?」

堀田さんは、凄いな。と、河野翔は言った。

だから!!全然普通だよーと、堀田栞は、返した。


キーンコーンカーンコーン


帰りのホームルームの時間だ。




「そんな事があったの」

君は、笑いながら言った。

私は、何だか、あそこは気持ち悪い。と、言った。

「確かに、気持ち悪いかもね」

窓から入る風に、黒髪が揺られている。

君は、黒髪をそっと、耳にかけた。

「でも、今はテスト勉強をしましょう」

私は、頷いた。

外からは、バットにボールが、当たる音がする。

トランペットや、トロンボーン等の楽器の音もする。

それに負けじと、蝉の声も大きくなる。

だけど、教室で聞くより、ずっと心地がいい。

君と居ると、全てが心地いい。



「そろそろ帰りましょうか」

いつの間にか、空は、オレンジ色に変わっていた。

白く細い手が、窓を閉めようと伸びる。

外では、まだ声が聞こえる。

だが、楽器の音は聞こえなくなっていた。

「それじゃあ、また、明日も」

私は頷いた。

明日も、この場所で、君と秘密の時間を。



「ねぇ。知ってる?

2組の佐々木さん。援交してたんだって」

「知ってる!!写真出回ってたんでしょ?

あんな、大人しそうな感じで、ビッチだったんだ」

今日の教室は、一段と騒がしい。

2組の佐々木なのは。

成績が良く、図書委員の一人だ。

目立った噂は無く、静かに学校生活をしているはずだった。

その彼女が、援助交際をしていた事が分かった。

驚く人もいれば、笑う人もいた。

「アイツの写真見たよ。意外と、いい身体してんだな」

「俺も、金出したらヤラせてくれんのかな」

男子達は、特に盛り上がっている。

皆、自業自得だと、口を揃えて言っている。

私も、その一人だ。

「しかも、相手、女なんだろ?」

「そうそう!!やばくね?アイツ笑

もう、学校来れねぇだろ笑」

相手の顔も、出回っていた。

有名な都内の女社長だった。

朝のニュースで、散々見てきた。


キーンコーンカーンコーン


朝のホームルームの時間だ。



「まぁ、今日の連絡は、これぐらいだ。

後は、何の話か分かるよな?」

担任の、近藤圭吾が、皆を睨みつけた。

「朝から、うるせぇんだよ。

この事は、本人の問題なんだよ。

お前らが口を出すな。

今から、ネットの使い方について、話をする」

近藤圭吾は、テレビのスイッチをつけた。



「えー、今から、ネットの使い方について、話をしていこうと思います」

画面には、女性の教師が映っていた。

「どうして、こんな話をするかと言うと、最近、皆さんの心が乱れてきていると思い、このような形で、お話させていただきます」

女性の教師は、ネットの使い方について、説明をした。



「最後に、皆さんには、楽しい学校生活を送ってもらいたいので、私から、このような話をさせて頂きました。

これからも、ネットの使い方には、気をつけて欲しいなと思います。

これで、以上です。ありがとうございました」

女性教師は、礼をした。

直後、テレビは暗闇に包まれた。



あの後、近藤圭吾が、

「お前たちは、まだ若いんだから。

馬鹿な事で、人生を棒に振るなよ」と、言って終わった。

私は、気晴らしに中庭を歩いていた。

ベンチに誰か座っていた。

佐々木なのはだ。

私は、佐々木さんと、声をかけた。

佐々木なのはは、ゆっくりと顔を上げた。



私は、何があったの?と、聞いた。

佐々木なのはは、重たい口を動かし、ゆっくりと、

喋ってくれた。

「私は、援交なんてしてないの。

あの人は、私の恋人なの」

私は、驚いた。

彼女と女社長では、歳が離れすぎている。

更に、社長と高校生。

どういう方法で、知り合ったのか。

「私、女の人が好きなの。

でも、それを分かってくれる人がいなくて、それが辛くて、掲示板に書いたの。

そしたら、あの人が、優しくしてくれて…

最初は、不安だったけど、色々と話していく内に、

有名な社長さんって、分かったの。

それから、実際に会って、話もした。

凄く楽しくて、お互い、分かり合える人がいなかったから。

私も、どんどん惹かれていって、付き合うことになったの」

彼女は、ぽつりぽつり話してくれた。

「しばらくした頃に、あの人が、撮らせてって、言ってきて。

いいよって、言ったら、こんな事に…」

彼女は、泣き出した。

声を出さないように、必死に、小さな声で泣いている。

「私の、裸が出回るのは、いい…

でも、援交だって、言われることが…

辛いの…

それに、同性同士で、気持ち悪いって…」

彼女の声が大きくなっている。

私は、どんな風に声をかけるべきだったのか。

何も分からず、出た言葉は、


頑張ったね。




「佐々木さんは、もう来ないのかしら」

君は、不安そうな顔で言った。

私は、そうかもしれないと、返した。

外からは、バットがボールに当たる音がしている。

楽器の音は、今日は、聞こえない。

「今日は、何だか、暗いね」

君は、笑顔で言った。

だけど、いつもと違う。

口角だけが上がって、目は笑っていない。

私は、頷いた。

あの後、佐々木なのはは、保健室の先生に、背中をさすられながら、去っていった。

「どこから、広まったんだろう」

君が、ボソリと言った。

私は、聞こえないふりをした。

今日は、君と居ても、心地がいいとは、思わなかった。



「それじゃあ、また、明日」

私は頷いた。



「今日の、佐々木、すっげぇ面白かったよな!!」

校門に、向かおうと、歩いている途中、堀田栞が

大きな声で喋っているのを、見つけた。

「アイツ、あれは、恋人同士で、した事ですとか、言ってんの笑

マジ、笑うわ。

てか、同性同士とか笑

気持ちわりぃ笑」

でも栞、前にクラスで、そういうの気にし無いとか、言ってたじゃん。と、一人の女子が言った。

「そんなん、翔君の気を引こうと、嘘ついただけじゃん笑」と、堀田栞は、返した。

周りの女子は、うわーと、笑っている。

私は、その場から、早足で、去った。



後日、佐々木なのはが、転校したと告げられた。



「以上が、連絡だ。

もうすぐ夏休みだ。

そこで、ハメを外しすぎるなよ」

近藤圭吾は、そう言って、教室を出ていった。

テストが終わり、明日から、夏休みだ。

君との秘密の時間も、終わりが近づいてる。

「どうしよ、翔君に告白した方がいいかな?」

後ろで、堀田栞が、興奮している。

「夏休みに、翔君と、一緒にどこ行こうかなー」

もう、成功する前提なの?笑

周りの女子が、笑っている。

「だって、絶対私に気があるに決まってるじゃん!!

良い人だね、とか普通好きな人意外に言わないでしょ!!」

堀田栞は、興奮した状態で、周りの女子と一緒に、どこかへ行った。



帰りのホームルームが終わり、いつもの場所で向かっている途中、堀田栞と河野翔が、見えた。

「私ー、そのー、翔君のことが、好きなの!!

付き合って!!」

堀田栞の瞳が、潤んでいる。

河野翔は、潤んだ瞳を見つめている。

そして、吹き出した。

堀田栞は、呆気にとられている。

「ごめん。ごめん。あまりにも、可笑しくって」

「ど、どうしてー?」

堀田栞が、恐る恐る聞いた。

「俺、付き合ってる男の人がいるんだよ。

だから、ごめんね」

堀田栞は、口を開けたまま、放心した。

「気持ち悪いと、思ったでしょ?

昨日、堀田さんの事、稲葉さんから、聞いちゃって。

佐々木さんの事で、笑ってたんでしょ?

堀田さんは、やっぱり、良い人なんかじゃなかったんだね」

さようなら。最後に、河野翔は、堀田栞にそう言って、その場を去った。

堀田栞は、まだ、呆気にとられている。



私は、心が高揚しているのに、気づいた。

それは、行動にも、出ていた。

走ってはいけない廊下を、初めて、走っている。

君に、さよならを言いたくて。

私は、扉を開けた。

息が上がっている。

君の、黒い瞳が、私を見ている。

私は、笑顔で、君にさよならを言う。


「君の事が好き」



夏休み明け、初めに聞いたのは、河野翔が転校した事。

皆、残念がったが、堀田栞は、不機嫌そうだった。

もう一つは、転校生が、このクラスに来ること。

夏休み明けは、いろんな事が起きた。



そして私も、まだ、君にさよならを言えていない。



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