第2話 聖《セント》アリナン女学園の日常
清美の衝撃の告白を受けてから一時間後、ハルカと清美は一緒に登校した。
ハルカは清美の家で朝ごはんをごちそうになったが忍者飯だったので味覚は満たされなかったが腹は一応満たされた。
「アタシが忍者で」
「私が宇宙人」
お互いに秘密を隠し持っていたとは思わなかったわけで。
しかし、ハルカと清美の友情は秘密を共有することで深まった。
「ところでハルカはどの辺が宇宙人なの?」
「え? どの辺って」
「宇宙人って目が三つあって角が三本で手足が触手じゃない?」
「そんな人いないよ。それは愚かな人類が生み出した虚構でしかないよ」
「あ、今の宇宙人っぽかった」
「本当?」
「『愚かな人類が生み出した』のところ宇宙人って感じする」
「私も自分が宇宙人って知ったの最近だから自覚なくて」
「じゃあこれからどんどん宇宙人になろうね」
「清美も忍者っぽくなろうね」
「忍者が『忍者でございます』みたいだったら変でしょ」
ハルカは清美が黒い忍者装束を着て「忍者でございます」と言っている絵を浮かべて笑った。
「確かに」
そんな会話をしつつ学校に到着した。
ハルカと清美が通っている学校は『
名前は変わっているが自由な校風が人気で倍率がとても高いが選ばれる基準は不明である。ハルカも清美も試験を受けていないがある日入学案内が届いた。
清美とハルカが下駄箱で駄弁っていると清美が後ろから誰かにハグされた。
「うわ!」
「キヨキヨおはよう!」
「あ、
「もう、いい加減慣れてよねー」
「あはは」
ハルカは気づいていた。
清美は後ろの気配も誰がハグしてくるのかも把握していた上でわざとハグされたのだ。
なぜなら清美は忍者だから。
変わった名前と明るいキャラクターでクラスの人気者だ。
清美のことを気に入っているらしく、たまに誰にもしないハグを清美にする。
ハルカもされたことがない。
清美が吹子にハグされてるのを見てもハルカは何も思わなかった。
『清美の親友は私だから』
その自信でハルカは清美が誰と仲良くしようが気にしないのだ。
そして新たな自信『秘密の共有』を手に入れハルカはもはや無敵だった。
「キヨキヨは吹子がいないとダメなんだからねー」
しかし、吹子の清美を『キヨキヨ』という呼び方に腹が立つ。
「じゃあ私、先に教室いってるね」
ハルカは清美を置いて教室に向かった。
あの場にいると吹子のペースでハルカの時間が無駄になるだけだ。
清美は吹子の扱いに慣れているからハルカは安心して教室へと行った。
教室にはすでに何人かがいたがまだハルカは名前と顔を覚えられずにいた。
ハルカの頭脳レベルは地球人の倍なのだが自分に興味を持ったものでないと全く働かないのである。
「ハルカさん、おはよう」
ハルカが席に座ったと同時に声をかけられる。
「……あ、烈風キヤラさん。おはよう」
「なんでフルネームで?」
「私名前覚えるの苦手だから覚えるまでフルネームで呼ぶの」
「ハルカさんてやっぱ面白い」
ハルカを『ハルカさん』と呼ぶ烈風キヤラは短髪のいかにも活発少女である。
「あ、蚊だ」
キヤラは人差し指を蚊が飛んでる方向に向け指からレーザーを出した。
『ジュッ』と音を立てて蚊は消滅した。
彼女はサイボーグなのである。
首の後ろに付いている端末で電脳空間に行ってウィルスを退治したり電子機器の不具合を直した経験などが認められたのか聖アリナン学園に入学してきたスーパーサイボーグな女の子なのだ。
「烈風キヤラさんはやっぱすごいね」
「いやいや生まれつきだよ。それにこれは私のチカラというより博士の技術だから」
キヤラは遠くを見つめた。
サイボーグも悩んでいるのだ。
ハルカとキヤラが話ている間にホームルームの時間が迫ってきたのでキヤラは自分の席へと行った。
学校のチャイムが鳴ったと同時に先生が教室へと入ってきた。
「皆さん、おはようございます」
少しガラガラ声の担任『
担当教科は数学。白衣をいつも着ている。
「あー、今日の予定は特にありませんね」
「いつも通り授業だけです。以上」
マイコ先生はいつもこの調子で言ってくるので予定が合ってたことはない。
生徒たちはマイコ先生を当てにしていないので事前にプリントを確認している。
「奇跡的に支障はないがよくクビにならないものだな」
ビシっと着込んだタキシード姿の女の子が低い声でボソッと言ったのをハルカは聞いた。
ハルカの後ろの席にいる『
幼少期よりベルばらを読みオスカルに対する憧れが強すぎて自由な校風のアリナン女学園なら自分がいても良いはずという動機で入学してきた。
低音ボイスを手に入れるため特訓をしたらしい。
ホームルームが終わってすぐ、ハルカはクルっと身体を後ろに向けてカミヤと向き合って言った。
「マイコ先生よくクビにならないよねー」
「なんだ聞いていたのか」
実はハルカは隠れカミヤファンだったのだ。
隙があればいつでも話したいと思っていた。
「いい加減と自由な校風は違うだろうに」
「さっすがカミヤ様! マイコ先生にも言ってやってよ!」
「本人に言うほど野暮なことは無いよ。それにあれがマイコ先生の個性なんだろう。それを取るのは残酷だ」
『残酷だ』と言った時のカミヤの目がそれこそカミソリのように鋭くなったのハルカはたじろいだ。
「そ、それもそうだね」
カミヤは『個性』という言葉に何かこだわりがあるらしい。
昼休みになった。
ハルカは清美の元に行き、昼飯を一緒に食べる。
「清美がいつも変なもの食べてるとは思ってたけどまさか忍者飯だったとはね」
「いままで変だと思ってたの?」
「最初はグミみたいなものだと思ってたけどなんかそうでもないし。兵糧丸食べてたら余計忍者バレしちゃわない?」
「忍者道を志してから忍者食以外食べたことないし」
「今までよく平気だったね」
「忍者だから」
「忍者じゃしょうがないか」
「ハルカはどこが宇宙人なの?」
「うーん。壁抜けができるとか」
「だから朝、アタシの部屋に入れたんだ」
「うん……。ひょっとして普通に侵入してたら?」
「ハチの巣みたいに穴だらけだったかもね」
「宇宙人でよかった!」
「でも壁抜けだけじゃ宇宙人っぽくないね」
「それ私も思った。他にもギミックあるかもしれない」
ハルカは腕を引っ張ったり頭を持ち上げようとしてみたりしたがどちらも取れることはなかった。
「ねえ。思うんだけどこの学校って変じゃない」
清美はハルカの耳元に口を近づけてこっそり言った。
「うーん。みんな変わってるよね」
とハルカが言った瞬間、校庭から爆発音がして何やら騒がしくなっていた。
「どうしたんだろう? 行ってみよう」
ハルカたち含め野次馬根性の生徒たちが校庭に集まった。
見るとサイボーグの烈風キヤラと
「何々、どうしたの?」
「キヤラさんが吹子さんのトマトジュースにレーザーで穴開けちゃったんだって」
「つまり喧嘩? ってレベルじゃない?」
「キヤラさんサイボーグだよ! 吹子、死んじゃうよ!」
「その心配はいらないよ。ハルハル」
ハルカの声が聞こえたらしく、吹子が答えた。
「なぜなら私は吸血鬼だから」
「そうなの!?」
「そして飲んでいたのはトマトジュースではなく、血ジュースよ!」
「だから謝ってるし代わりに私の血を飲ませたじゃん」
「何が血よ! オイルじゃない! おかげで口の中が油まみれよ!」
「私にとっては血なんだよ!」
「烈風キヤラ! アンタを粗大ごみスクラップにしてやる!」
吹子の背中から巨大なコウモリ羽が出現した。
「それなら地井吹子! アンタを焼きコウモリにしてやる!」
キヤラの腕が光、身体中にロボットっぽい線が入り、サイボーグでございますみたいな見た目になった。
サイボーグVS吸血鬼の戦いは確かに野次馬だらけになるかもしれない。
「これは、すごい。正直アタシも参加したい……」
清美はそう言いながらクナイを袖先から出したりしまったりしている。
「何なのよ。この学校……」
ハルカは一人だけ呆れていた。
「これがこの学校の正体だ」
いつの間にかハルカと清美の間にマイコ先生が立っていた。
「学校の正体?」
「それは……」
「この学校に通う生徒は普通じゃないってということだ」
マイコ先生のセリフを清美が取った。
マイコ先生がセリフを奪い返した。
「えー、普通じゃないというのは……」
そして清美が決めのセリフを全て言った。
「サイボーグ、吸血鬼、忍者などいわゆる一般的でない一族で構成されている」
「貴様は先生のセリフを奪うんじゃない!」
清美はマイコ先生にコブラツイストをかけられる悶絶した。
「そ、そ、そんなことより始まりますよ!」
もはやプロレス観戦状態である。
「どっちが勝つと思う?」
カミヤは腕を組み、ホビーアニメの美形キャラのような出で立ちと声で言った。
「どっちでも良い」
誰も止める気はない、むしろ止めたくない。
「いくぞぉ! 吹子ォ!」
「烈風ゥキヤラァ!」
黒い影と赤い影がぶつかった。
普通の人間だったら目にも止まらぬ速さの戦いであろう。
しかし、ハルカ、清美は宇宙人と忍者だ。
彼女たちの動きをしっかりと捉えていた。
吹子の身体は一瞬で獣と化し、鋭い爪と鋭い牙でキヤラ目掛け振りかざすが、キヤラは口から火遁の術よろしく火を放ち、吹子の目をくらました。
キヤラは足の裏にロケットが付いているらしく、その勢いで吹子を宙へと飛ばし、空中で腹に拳、背中に肘鉄をかけ、決め技にかかと落としをし、そのまま地面に叩きつけるつもりだ。
すごい。クラスメイトにすることじゃない。
吹子はボロボロだったが落ちる直前、自分の腕に噛みついた。
腕から滴り落ちた血が地面に血だまりを作ると、その中から吹子の背丈を超える不気味な生物が死の淵から蘇るように上がってきた。
背が高く肌は出てきたときの血だまりで真っ赤に染まっていた。
血が落ちたらさぞ美しい女性なのだろうというのが身体のシルエットからわかった。
「な、なんだあれは……?」
激しい戦闘からの召喚なら生徒たちも肉眼で把握できる。
「我が血の契約を交わしたバンパイヤ! 『
思ったより普通の名前だ。
「驚くなよ! 身長180cm! バスト95! ウェスト69! ヒップ 80! のナイスボディ!」
「だから、どうしたー!」
キヤラは吹子の腹に肘からロケット噴射を出した拳を叩きつけた。
「す、吹子!」
「か、加奈子……へへ、見っともないところ見せちゃったね……」
「大丈夫だよ。ここから逆転だもんね」
「ああ。そうさ。キミの血があるからね!」
吹子は加奈子の左手首にキスをすると、加奈子の真っ赤だった身体みるみるうちに元の色を取り戻してくる。
白いワンピースに黄色い髪を持った美しい少女だった。
「じゃあ、行ってくるね……」
「必ず、帰って来てね……」
知らない人が見たら感動的シーンだが、これはクラスメイト同士のケンカである。
しかし、普通に該当する者がいないので、ケンカひとつで殺し合いになるのが我が校風らしい。さっき知ったが。
「ほお。血を吸ってパワーアップ。ずいぶんと古典妖怪だな」
「アナタのように1人で全てを補っているつもりのサイボーグにはわからないかもね」
キヤラは吹子の言葉が終わると同時に足の裏についたロケットを噴射して回し蹴りにかかった。
しかし。
「なるほどね……これがアナタの限界よ……」
素手の状態でキヤラの足を掴むと地面に叩きつけた。
「なッ!?」
吹子は間を開けずにキヤラの腹に右足で踏みつけた。
「この! 私は誰にも負けない! 例えケンカでも!」
ケンカという自覚はあったらしい。
「吹子さんよ。手抜いてくれたか知らないけど腹を狙ってくれってサンキューな!」
キヤラは大きく息を吸い込み、口から先程とは比較にならない威力の炎を吐き出した。
吹子を巨大な炎包み込むというか、校庭にまでいよいよ被害が出てきた。
「ここは僕に任せてください!」
カミヤが手を振りかざすとバリアっぽいのが生徒の周りに現れた。
「言い忘れてたが、僕は男装の麗人で魔法使いの僕っ娘キャラだ!」
カミヤは丁寧に説明し、両手でバリアをさらに強化した。
もう何が出てきても驚かないので誰もカミヤの自己紹介を聞いていなかった。
「吹子ぉおおおおおおおおおお」
「キィヤラーーーーーーーー」
お互いの拳がぶつかったとき、その威力に耐えきれなかったのか、カミヤのバリアが割れた。
「ぐっ! あの二人の威力が強すぎてバリアが……」
白熱していくケンカに外野が巻き込まれ始めた。
風圧で生徒は飛び、地面は抉れと世紀末状態だ。
「これはマズイ!」
マイコ先生が叫んだ。
「いや最初からマズイでしょ」
ハルカがすかさずツッコミを入れる。
「子どものケンカと思って舐めていたがやむを得ない。止める」
マイコ先生は白衣をマントのように脱ぎ捨てるとその下に、奇妙な着物を着ていた。
「先生は一体!?」
「私は最強の陰陽師だ!」
「まさか!? 先生があの最強の陰陽師だったのですか!?」
清美が驚く。
「知らない私がおかしいのかな」
ハルカは展開についていけなくなっていた。
「最強の陰陽師……退散できない悪霊はいないというあの……」
「吸血鬼とサイボーグだけど」
「お前らぁあああああいい加減にしろおおおおおお!!!」
マイコ先生はお札を張り付けた拳をキヤラと吹子に叩きこんだ。
「殴った!」
「あれが陰陽師……!」
「今の物理攻撃だったよ」
誰にも止められないと思っていたケンカは最強の陰陽師『千十院マイコ』の拳で事なき得た。
放課後、昼休みの白熱したケンカの後はキヤラと吹子の傷だらけでボロボロになってしまった服を見れば一目でわかるが一番の怪我は頬に貼ってある湿シップだろう。
マイコ先生にケンカ両成敗された部分が一番痛かったのだ。
「えーみんなケンカすんなよー」
マイコ先生は帰りのホームルームで言った。
ムチャクチャで何でもありなのが聖アリナン女学園。
これはほんのいち日常でしかないのをハルカは身を持ってこれからさらに知っていく。
私、宇宙人なの! シイカ @shiita
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