私、宇宙人なの!

シイカ

第1話 私、宇宙人なの!


「清美に本当のこと言わないといけないよね……」

 神宮寺しんぐうじハルカは盛大にため息をついた。

 ハルカは自分の長い黒髪が重く感じるほど首を前に倒した。

 清美というのはハルカの大が付くほどの親友、杜若清美かきつばた きよみのことである。

 ハルカと清美はお互い、秘密や隠し事をしないと熱く交わした仲だ。

 でも、実は、ハルカには清美にとっても大切なことを隠していた。

 それは、清美だけではない。

 クラスメイトにも、学校の先生にも、世界の人にも内緒のことだった。

「私が、宇宙人だって、言ったら、清美、怒るかな……」

 そう。ハルカはMウンタラ・ナンタラ星雲、ナントカ星の住人だったのだ。

 ハルカの本名は、『カルハ・ジウグンシ』。

 逆さまにして、神宮寺ハルカだ。

 なぜ、ハルカが地球に来たのか。それは、親の転勤だ。

 決して、地球侵略の偵察ではない。

 ハルカは生まれた時から地球に住んでいたのでハルカ自身、親の実家帰省のときにしか宇宙には行っていない。

 それが、地球基準からしたら、とんでもないことだなんて自覚が全くなかった。

 そもそも、ハルカ自身、自分が地球人だと信じていた。

 ある日、親から「お前は地球人ではないぞ」と言われたハルカは最初、戸惑ったが、親からのハルカがいかに地球人でないかの説明を受け、なんとか受け入れたのだ。

 受け入れはしたが一週間ほど食事が喉を通らなくなり、文字通り骨と皮になったが受け入れた。

 本人でさえ、この様だ。親友の清美に言ったら……。

「清美がショックで死んじゃったらどうしよう……」  

 ハルカは頭の中でシミュレーションをしてみた。


〇教室・夕方(放課後)

 秋の夕陽が差し込む教室の真ん中に向いあって立つ、ハルカと清美。

 スカジャンのポケットに左手を突っ込み、右手で前髪をいじる清美。

 心を落ち着けるため「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」の九字護身法を両手で行うハルカ。

 親友ではあるが、真面目な話をするのは初めてなのでお互い落ち着かない。

 ハルカは九字護身法を五回やり、意を決して口を開く。


ハルカ「清美、聞いて! 実は、私、清美に隠していたことがあるの!」

清美 「おう!」

ハルカ「実は私、宇宙人なの!」

清美 「…………は?」

ハルカ「う・ちゅ・う・じ・ん」

清美 「は、ははは。さては、ハルカ。アタシがバカだからって、そんなこと言うんだな!」

ハルカ「違う! 清美がバカなんじゃなくて、私、本当に宇宙人なの!」

清美 「ほーん。じゃあ、ハルカはどこの星の人なのかな? 住所を言ってみやがれ!」

ハルカ「Mウンタラ・ナンタラ星雲、ナントカ星」

清美 「やっぱりバカにしてんじゃねーか!」

ハルカ「違う! 本当にこういう名前なの! ほら、エロマンガ島とかスケベニンゲンみたいな感じ!」

清美 「……確かに、惑星には『たこやき』や『しじみ』など冗談みたいな名前がある」

ハルカ「うん」

清美 「わかった。信じるよ。親友だもん」

ハルカ「清美……」

清美 「ハルカ……打ち明けてくれてありがとう」

 

 教室の真ん中。抱き合う二人。

 照明が舞台の終了を告げるかのように沈んでいく夕陽。


 ――完――


「……完璧なシナリオだわ……」

 ハルカは自分の脳内で作った脚本に感動した。

「よし! 清美に打ち明ける!」

 ハルカは布団に入り、明日、誰よりも先に清美に会おうと決めた。 


            ◇


 杜若清美かきつばたきよみがベッドから目を覚ますと自分以外にいない部屋で気配を感じた。

 清美は気配を感じた場所に枕の下に常備している手裏剣を投げた。

「危ない!」

 手裏剣を投げた場所から声がした。

「いきなり手裏剣投げる!?」

「その声は我が友、神宮寺ハルカではないか」

「お、おはよう清美」

「なんで部屋にいるの?」

「清美に誰よりも一番に伝えたいことがあって」

「学校じゃダメなの?」

「誰よりも先に清美に会おうと決めたら学校より部屋の方が確実だと思って」

「どうやって入ったんだよ」

「いや、ほら私宇宙人だし」

「は?」

「あ」

 ハルカは告白しようとしたことを流れで言ってしまった。

 昨日考えたシナリオは一体何だったのか。

 ハルカのシナリオは秒で崩れさり、すべてアドリブでこなさなければならなくなった。

 そもそも、清美の部屋に直接侵入してる時点でシナリオから外れているのだ。

 清美は意味が解らないという顔をしながら部屋の電気を点け、ハルカに座布団を出し、お茶とお菓子を用意した。

「不法侵入したのにお客さん扱いしてもらえるなんて」

「不法侵入だけど今回はほら友達に免じて」

「かたじけない」

 清美の手裏剣のせいかハルカは時代劇みたいな口調になった。

「んでハルカは宇宙人なんだっけ?」

 清美の言葉に口から湯呑を離した。

「なぜそれを?」

「さっき自分で言ったじゃん。私宇宙人だしって」

「そう。そうだったわね」

「急に文芸小説みたいな言い方しても遅いって」

「はい。すいません。宇宙人です」

「それでなんて星から来たの?」

「Mウンタラ・ナンタラ星雲。ナントカ星」

「バカにしてる?」

「いえ、あの、本当にこういう名前で、ほら、エロマンガ島とかスケベニンゲンみたいな感じで……」

「……確かに、惑星には『たこやき』や『しじみ』など冗談みたいな名前がある」

「うん」

 ノリやテンポは違うが偶然にもハルカが書いたシナリオ通りの展開になってきた。

「わかった。信じるよ。親友だもん」

「清美……」

「ハルカ……打ち明けてくれてありがとう」

「ヨッシャ!」

 シナリオ通りにいったことが嬉しくて思わずガッツポーズをしたがそこからシナリオは作者ハルカの予期せぬ展開へと転がっていく。

「まあ、アタシも忍者だし」

「え?」

 清美の思わぬ発言にハルカは裏返った声が出た。

「アタシってほら忍者じゃない?」

「そうなの!? だから手裏剣投げたの?」

「忍者が手裏剣なんて常識でしょ?」

「清美が忍者だなんて知らなかった」

「アタシもハルカが宇宙人だって見破れなかったからお互い様だね」

「え、あ、うん?」

 ハルカは納得できずに曖昧な返事になった。

「杜若家の諜報術ちょうほうじゅつを以てしても神宮寺家宇宙人説を暴くことができなかったから」

「調べてたの!」

「ほら、ウチ忍者じゃん?」

「忍者なら調べるの!」

「神宮寺家が宇宙人ではないかとアタシの中で噂になったのはハルカが転校してきた10年前」

「清美の中だけでは噂と言わないよね」

 衝撃の事実を聞いてもハルカはツッコミを忘れない。

「アタシが神宮寺家が空から降ってくるのを見てから」

「バッチリ見てるじゃん」

「あの頃は目の錯覚だと思った」

「強烈な錯覚じゃない?」

「だからアタシは証拠を突き止めるため、廃れていた杜若家の忍技術しのびぎじゅつを復活させた」

「え、なんかごめん」

「いや、ハルカの家のおかげでウチは落ちぶれ忍家系しのびかけいからエリート一族にまた戻れたから」

「そ、そうか……」

 自分の秘密を話に来たのに清美の家系事情ばかり聞かせられるのは面白くないと思ったが清美の話に勝てるほどの話をハルカは持っていなかった。

「そうか。清美の家は忍者だったのか……」

 もう相槌しか打てなかった。

「ハルカ、宇宙人でありがとう」

「いえ、宇宙人として当然のことをしたまでです」

 宇宙人であることに感謝されハルカの頭はオーバーヒートした。 


                               完

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