★恋心⑧
そうして午前中の授業を何とか乗り切った私はお昼休みの時間を迎えていた。私はいつものように凛ちゃんと桃ちゃんとお昼を摂る。
「いよいよ明日、郷土文化学習かぁ~」
「何?凛、しみじみと。明日にそんなに思い入れがあるわけ?」
「そういうんじゃないんだけど……」
凛ちゃんは桃ちゃんの言葉にそう言うと、私の方をチラリと見やった。その視線に気付いて私も凛ちゃんを見る。目が合うと凛ちゃんは真剣な表情になって真っ直ぐに私に問いかけてきた。
「由菜、悠真くんと何かあったの?」
単刀直入なその質問に、お弁当のおかずを飲み込もうとしていた私は喉におかずを詰まらせてむせてしまう。
「ちょっ、ちょっと由菜、大丈夫?」
「大、大丈夫……」
けほけほとむせながら、私は凛ちゃんからの鋭い質問にどう答えるべきか思案しながら呼吸を整える。凛ちゃんと桃ちゃんが黙って私の答えを待っているのが分かった。
私は結局、
「何もない、よ?」
上ずった声で、ありきたりな答えを返すしか出来なかった。そこへ桃ちゃんが追い打ちをかけるように口を開く。
「そう言えば委員長。1限の社会の後に悠真と何か話してたみたいだけど?」
「うっ……」
桃ちゃんの言葉に、私は完全に二の句が継げなくなってしまう。悠真くんに告白されたなんて、恥ずかしさもあって話すことは出来ない。それに、悠真くんのことを考えたら軽々しくそういうことを言うものではない気もする。
どうしたものかと思案している私の様子をしばらく見ていた桃ちゃんが盛大なため息をついた。
「はぁ~。言いにくいことなの?」
「それは、その……、はい……」
何だか敬語になってしまう私に、桃ちゃんは両手を挙げると、
「じゃあ、悠真の話はこれでおしまい!」
「ちょっと、桃!」
凛ちゃんが抗議の声を上げるが、桃ちゃんはもう1度私の方を見てから口を開いた。
「だって、委員長がここまで
「確かに、由菜って変に頑固なところあるし……」
凛ちゃんは桃ちゃんの言葉に渋々と言った様子でこの話題をするのをやめてくれた。場が落ち着いたのを見た桃ちゃんが時計を見やる。
「委員長、そろそろジミー先輩の所に行くっしょ?」
突然当然のように出てきた隼人先輩の名前に、私は思わず顔をゆがめてしまう。2人には話しておくべきだろう。最後まで、私と隼人先輩のことを心配してくれたのだから。
私は意を決して口を開いた。
「あのね、2人とも。私、ダメだったの」
「は?」
「え?」
2人が調子はずれな返事をそれぞれ返した。私はもう1度、自分にも言い聞かせるように繰り返した。
「先輩に、フラれたの」
私は自分が口に出したその現実に押しつぶされそうになるのを、下唇をぐっと噛んで我慢する。そんな私の様子に2人は押し黙ってしまった。私はその沈黙が耐えられなくなって、
「やだな、2人とも。そんな顔しないでよ」
そう言って、あはは、と笑った。すると突然、私は桃ちゃんに頭を抱きしめられてしまう。
「頑張ったんだね、委員長は」
耳に直接響いた桃ちゃんの声はとても優しくて、私はこらえていた涙が溢れるのを止められずにいた。そんな私の背中を桃ちゃんはしばらくぽんぽんと優しく撫でてくれていたが、突然ぎょっとした声を上げた。
「ちょっ、凛までどうしたの?」
その声に私は自分の涙を
「分かんない。由菜のこと考えてたら、勝手に涙出た……」
「何それ」
桃ちゃんは凛ちゃんの言葉におかしそうに笑った。私も悪いと思ったけれど、桃ちゃんがあまりにもおかしそうに笑う姿につられて笑ってしまう。
「由菜まで笑うことないじゃない?」
凛ちゃんはずびっと鼻をすすると、じとりと私の方を見やった。そんな凛ちゃんが可愛くて、私は「ごめんごめん」と謝ると、くすくすと笑ってしまうのだった。
こんなにも心優しい2人の友人のためにも、私はいつまでもグズグズと泣いている場合ではないと言う気持ちになった。私は両手で両頬をばしっと叩く。そしてすくっとその場を立つと、
「私、顔洗ってくる!」
「そうしな。凛も行ってきたら?」
「そうする……」
私は凛ちゃんと2人、顔を洗うためにその場を去った。そうして、3年生が修学旅行へ行く前日の昼休み、私はとうとう視聴覚室へは行かなかった。
翌日の郷土文化学習当日。お天気はあいにくの曇り空で、梅雨らしいジメっとした空気が漂っていた。
私たち1年生は学校のグラウンドに集まり、班ごとに整列している。この日は体育大会の時とは違って、全員制服だ。修学旅行当日となる3年生たちは駅前集合になっていて、今学校に姿は見当たらない。
私たち1年生の集合が完了した頃、私たちの前に学年主任の先生が現れた。先生は全員に朝の挨拶をすると、出発前の注意事項を伝えていく。
「くれぐれも車に気を付けて、安全確認をしっかり行って1日を過ごしてください」
学年主任の挨拶が終わると解散が言い渡され、私たち1年生はそれぞれの目的地に向けて散り散りになっていく。
「んじゃ、俺たちも出発しますか」
私たちの班も悠真くんのこの言葉で最初の目的地であるお寺を目指して学校を出た。
細い地元の道を行った先に、目的のお寺がある。この地元の道は車の抜け道となっていおり、通勤ラッシュを過ぎた今でもそれなりに車通りがある。私たちは車を気にしながら、住宅街にもなっているこの細い地元の道をしばらく歩いて、目的地へと到着した。
私たちが到着した頃には既に何組かの班が到着しており、住職さんの登場を今か今かと待っている状態だった。私たちも適当な場所に立って住職さんの登場を待っている。その間も続々と他のクラスの班がやって来る。そうしてある程度の班が集まった頃、本堂の方から1人のお坊さんがやってきて、生徒たちの視線を集めた。
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