★体育大会の季節です!⑧
「なるほどなるほど。桃が言いたいことも分かるなぁ~。やっぱり由菜に足りないのはメイク力だよ!」
凛ちゃんの言葉に、今の私の格好はおかしいのかな?と少し自信が失われていく。そんな私の様子に気付いたのか、凛ちゃんがフォローしてくれた。
「服自体は由菜に似合ってるんだし、今日はメイク覚えて完璧にしちゃお!」
そんな話をしていると、
「ごめん、待たせた?」
杉浦さんがやってきた。杉浦さんはアメリカンな女性の横顔が大々的にプリントされた赤のノースリーブトップスにシンプルな黒のショートパンツを履いていて、メイクも普段通りばっちりしていたので目立っていた。靴も厚底のウェッジソールサンダルだったので、学校で会う時よりも目線が上に行く。
心配そうに聞いてきた杉浦さんに、
「大丈夫だよ」
そう答える。私は改めて2人の個性的なファッションを見ていて、自分がダサいのではないかと自信がなくなってしまうのだった。
合流して私たちは改札に向かう。ICカードを通して改札をくぐりながら杉浦さんが口を開いた。
「委員長って、ガーリーな服が好きなんだ?」
「変、かな?」
自信がない声が自然と出てしまった。それを聞いた杉浦さんは笑って否定してくれる。
「変じゃないよ。凛みたいにパンクっぽい服が好きな人がいれば、私みたいに派手な服が好きな人もいる。それって普通じゃない?」
「でも私、2人みたいに着こなせてる自信、ない」
思わず私は杉浦さんの言葉に甘えたようなことを言ってしまった。2人は私の言葉に顔を見合わせる。そして杉浦さんが凄く優しい声音で話してくれた。
「好きなお洋服をさ、たくさん着るんだよ。そして、最後には着られている自分じゃなくなって、お洋服を着る自分になるの。学校の制服だってそうじゃない?」
杉浦さんの言葉に4月の入学式辺りでのぎこちない制服姿の自分を思い返す。それが今では毎日着ていたので着せられている制服ではないと言いきれた。杉浦さんが言いたいことはそう言うことだ。
「由菜、夏服買おうね!」
凛ちゃんが私に笑顔で話す。私もつられて笑顔になるのだった。この2人に出会えて良かったな、と心底思える。
電車で揺られながら他愛ない会話をする。それは学校の先生の悪口だったり、男子のことだったり。そうして街まで出た私たちは以前お兄ちゃんに連れて来て貰ったファッションビルへと入った。ちょうど店内はセール中で、私でも買えそうなお洋服が並んでいる。そして、私が以前お兄ちゃんに買って貰ったショップへと立ち寄る。2人は普段立ち寄らない店内に興奮気味だった。
「すっごい。可愛い服ばっかり!」
「可愛いを形にしたようなショップだ!」
私は2人のテンションにつられて、自分も楽しもうと気持ちを切り替える。相変わらずフリルやレース、リボンがたくさん使われているお洋服たちは、見ているだけで幸せにしてくれた。
セール品を中心にトップスを見ていく。その中で私が気になったのは、首回りにチョーカー風のギャザーレースにリボンがついた夏にぴったりのシースルーの半そでトップスだった。袖の部分にはワンポイントになるリボン。袖とデコルテ部分がシースルーになっており、レースやリボンでどうしても暑そうに見えるデザインをうまくカバーしている。背中部分はチョーカー風のリボンを首の後ろで真珠風のビーズをボタンとして留めるだけのシンプルなものだったが、シースルーの袖と背中部分がそれでも可愛く後ろ姿を演出してくれていた。
「委員長、それ気になるの?」
トップスを手に取って見ていたら杉浦さんに声をかけられた。その声を聞いた凛ちゃんも近寄ってくる。
「あ、それカワイイ!」
「そのボトムスに合わせるなら色は絶対白がいいなぁ~」
「こっちのリボンが黒の方が締まって見えそう!」
2人はキャッキャとはしゃぎながら意見を出してくれる。私はそれを参考にして1着を手に取った。全体の色は白で、リボン部分が黒のものだ。
「せっかくだし、試着したら?」
杉浦さんの提案に私はその1着を持って試着室へと向かう。やはり初めての洋服に袖を通すのは緊張する。今回も気を付けながら試着をしてみる。黒から白のトップスへ。鏡に映った自分は見た目が一気に涼し気に変わる。そのまま試着室のカーテンを開けると外で待っていた2人が振り返った。
「清楚系~」
「一気に夏っぽい!」
2人の感想に少し気恥しさを感じていると、杉浦さんが、
「着ていくっしょ?」
その問いかけに少し迷ったが、私は頷いた。
「そうだね、着て行こうかな」
すると凛ちゃんが店員さんを呼んで来てくれた。店員さんは慣れた手つきでタグを取り外してくれる。そのまま会計を済ませた後、私は2人のショッピングの様子が気になり2人の夏服を見ることを提案した。
「私らの?」
「別に面白くないと思うなぁ~」
2人は最初はそんなことを言っていたが、
「せっかくここまで来たんだから、見ていこうよ!」
私の言葉に行きつけのショップへと案内してくれることになった。
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