★体育大会の季節です!⑦
「教師対抗リレーに出場する選手のみなさんは、集合してください」
そしていよいよ、体育大会最後の種目、教師対抗リレーの集合を促すアナウンスが入った。私が席を立ちあがると、
「委員長、ファイト!」
「うん!行ってくる!」
私は杉浦さんに見送られて集合場所まで駆け足で向かった。集合場所には既に隼人先輩と遥先輩の姿があった。私はズキンと痛む胸に頭を振る。
(今は本番に集中しなきゃ!)
「選手、入場」
アナウンスが入り、私たちはグラウンドへと入場する。そしてスタート位置にそれぞれ散っていく。私も自分のスタート位置へと駆けていく。私たちとは少し離れた場所で先生たちが待機していた。
「位置について、よーい!」
バン!
スタートの合図とともに一斉に応援席から歓声が飛んでくる。私はその歓声と盛り上がりに息を飲んだ。緊張から心臓がバクバクと鳴り出し、口から飛び出しそうになっている。私は深く深呼吸を繰り返し、スタート位置についた。勝負は先生チームが少しリードしているようだった。
スタート位置についた私は昨日の視聴覚室での練習を思い返していた。
『前だけを見て』
そう耳元で囁いてきた先輩の言葉が蘇る。私は真っ直ぐに前だけを見て、バトンが回ってくるのを待った。そしてついに、
「頼んだ!」
深谷くんのその言葉と共にバトンが回ってくる。私は前だけを見て地面を蹴った。周囲の景色がビュンビュンと飛んでいく。そして目の前に隼人先輩の背中が見えてくる。
(隼人先輩!)
私は一心不乱に走った。そしてバトンを待っている隼人先輩へとバトンを伸ばす。
(届いて!)
どんな思いが届いて欲しかったのか、自分でも分からない。ただ、今まで感じてきた隼人先輩への気持ちを全部、このバトンに乗せて届けたい、そう感じたのだった。
私が隼人先輩にバトンを回した時、勝負は五分五分で、勝負の勝敗は3年生の先輩たちに託された。
私は肩で息をしながら隼人先輩の走りを見つめる。先輩は涼し気な顔で先生たちとの差を広げていく。そしてアンカーの遥先輩へとバトンが回った時は、生徒代表の勝利が決まったようなものだった。
遥先輩は軽々とゴールテープを切った。その瞬間、応援席の生徒たちから大歓声が上がり、後からゴールした先生たちは悔しそうな顔をしていた。
私たちは遥先輩の元に駆け寄り、勝利したことを一緒に喜んでいた。
こうして長いようで短い体育大会の1日が終わった。閉会式での結果発表では、私たちのクラスは優勝チームになっていた。初めての体育大会で大健闘した私たちはクラス中で喜びの声をあげていた。
閉会式が終わり、各自自分の椅子を持って教室へと戻っていく。日中あれだけ賑やかだったグラウンドがいつもの殺風景に変わっていく。私は少し寂しさを感じつつ、教室へ戻る準備を始めた。
「お疲れ!由菜、桃!」
「凛ちゃん!」
教室へ戻ろうとしていた所に凛ちゃんが椅子を持ってやってきた。私たちは自然と3人で教室へと戻っていく。その道すがら、凛ちゃんが口を開いた。
「明日、学校休みでしょ?」
「うん」
「どうかした?」
私たちの疑問に凛ちゃんはニヤリと笑う。
「打ち上げ、やらない?3人で!」
凛ちゃんの言葉を聞いた杉浦さんが楽しそうに言う。
「それいい!買い物行こうよ、買い物!」
「楽しそう!」
2人が会話で盛り上がっているのを、私は笑いながら聞いていたのだが、凛ちゃんが突然私に話題を振ってくる。
「黙っているけど、由菜。明日は由菜のイメチェンしたいんだけど」
「え?」
「中学生になったんだし、由菜もそろそろメイクぐらい覚えていいと思うんだよねぇ」
突然の凛ちゃんの提案に私が驚いていると、隣にいた杉浦さんが楽しそうに口を開いた。
「それ名案!委員長、いっつもスッピンだし!」
私のことで2人が盛り上がっていたが、私の頭はまだ2人の会話について行けずにいた。
「ちょっと待って!メイクなんて、私何も持ってないよ?」
「だから、明日それを買いにいけばいいじゃん?」
凛ちゃんがこともなげに言ってのける。
「メイクの仕方なら教えてあげるし!」
杉浦さんも乗り気で言う。
「さっすが桃!頼りになる~」
凛ちゃんは杉浦さんに言う。
こうして私は明日の打ち上げで初めてメイクをすることが決定してしまった。
翌日の集合場所は地元の最寄り駅になっていた。ここから3人で電車に乗って街に出ることになっている。私は凛ちゃんの要望もあって、今回はゴールデンウィークで行ったライブと同じ格好をしていた。待ち合わせ時間の5分前には到着してしまった私は、手持ち無沙汰にケータイをいじる。話題のSNSをチェックしているとあっという間に時間が経った。集合時間ぴったりに、
「あれ?由菜だけ?桃は?」
凛ちゃんが現れた。私は「まだ」と返す。
この日の凛ちゃんはネコ柄のプリントの周りに猫の足跡が散りばめられたチュニックTシャツ。太ももと右ひざには大きめのダメージが入ったジーンズを着ていて、ライブに行くよりもラフな格好だった。メイクも学校でのメイクを少し濃くした程度で、ライブの時よりは気合いが入った感じではなかった。
「その恰好でライブ行ってきたんだ?」
凛ちゃんの問いかけに私は少し恥ずかしくなりながら頷く。
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