★体育大会の季節です!②

 先生の文字を追いながら、再び教室内がざわつき出した。凛ちゃんも後ろを向くと、


「由菜はさ、意外と足速いから、短距離とかリレーがいいかもね」


 その言葉を聞いていた隣の深谷くんが驚いている。


「えっ?如月さんって走るの得意なんだ?」

「そんなこと、ないよ……」


 私が少し照れて言うと、深谷くんは真面目くさった顔で口を開いた。


「謙遜は時に、嫌味となる。うん、なんか今その言葉の意味を理解したわ」


 何かのセリフを言うと、深谷くんはうんうんと1人納得している様子だった。こうして教室のあちらこちらにどの種目に出るかの相談が行われている。


「凛ちゃんは何にするの?」

「ラクなの!」


 凛ちゃんは即答する。そのブレない態度に私は苦笑する。話をしていると先生が種目を書き終えたようで、


「はい、じゃあどれに出たいか聞いていきます」


 遠山先生のその言葉にざわついていた教室内が静かになった。こうして始まった種目決めは、小学校にはなかった種目が人気でじゃんけんをして決めていく。

 結局私は凛ちゃんの助言を受けて女子100メートル走に出ることになった。凛ちゃんは激戦のじゃんけんに勝ち抜いて、杉浦さんと同じ棒取りに決定していた。


「最後に、教師対抗リレーに出る代表を決めたいと思います」


 先生は一通りの種目の出場者が決まったところでそう言った。教師対抗リレーとは、各学年の選ばれたクラスの代表2名ずつがチームを組んで、先生チームと競うリレーだった。1年生は今年、遠山先生のクラスが選ばれたようだった。


「出たい人はいませんか?」


 先生の問いかけに誰も手を挙げる人はいなかった。皆一様に顔を見回していて、なんだか面倒くさそうなこの種目に出たいと言う人は出てこなかった。私は何となく、誰もいないのなら、と思い手を挙げる。


「じゃあ女子の代表は如月さん。男子の代表はいませんか?」

「はいっ!」


 隣の席から元気な声が聞こえてきた。深谷くんだ。


「深谷くんね。皆さん、これでいいですか?」


 先生の問いかけに教室中で「はーい」と声が上がり、私は100メートル走と教師対抗リレーに出ることが決まったのだった。

 そこで先生が時計を確認する。つられて私も時計を見ると、間もなく授業が終わる時間になろうとしていた。


「教師対抗リレーに出る2人は、放課後からバトンリレーの練習がありますので帰らないように」


 先生の言葉の後にちょうど授業が終わるチャイムが鳴った。


「リレー、頑張ろうな!」


 深谷くんがそう私に声をかけてくれる。そして短い休み時間が始まった。深谷くんは教室の真ん中の男子のグループの元へと駆けていくのだった。




 その日の放課後は3学年の教師対抗リレーに出る代表たちの顔合わせと言うことで、私は制服姿で校庭に出ていた。そこで思わぬ人の姿を見つける。


「遥先輩!」


 私は見知った顔が嬉しくて遥先輩の元へと駆けていく。遥先輩は隼人先輩を探していた時に私を助けてくれた先輩だ。先輩は少し驚いたように私の方を見ていた。


「3年生は遥先輩のクラスが代表だったんですね」


 私の言葉に遥先輩が笑顔を見せてくれた。


「そうなんだよ。由菜ちゃんのクラスも代表だったんだね」

「はい!」


 すると先輩が、面白いことがあると言いたげ表情で顔を近付けてくる。私も聞き耳を立てた。


「由菜ちゃん、あそこ見てみ?」


 先輩が指さした方を見ると意外な人物が立っていた。


「隼人先輩?」


 隼人先輩は少し機嫌が悪そうにむすっとした様子で校庭の隅に立っていた。

遥先輩がおかしそうに笑いながら話してくれる。


「そうなんだよ。隼人のヤツ、バスケ部なのに幽霊部員だからってみんなから押し付けられちゃって……」


 そう言ってクスクスと笑う遥先輩。私は遥先輩からもたらされた情報に驚く。思わず、


「隼人先輩ってバスケ部だったんですか?」


 勢い込んで尋ねてしまった。遥先輩はそんな私に嫌な顔1つせずに答えてくれる。


「そうだよ。昔から隼人、運動神経だけは抜群なの。今はそうは見えないかもしれないけれど」


 そこで私は1つ疑問に思ったことを口にする。


「遥先輩と隼人先輩って、仲いいんですか?」


 私の純粋な疑問に、遥先輩は少し考える風に答えてくれる。


「隼人と私かぁ。家が隣でね、幼なじみなの」


 そう言う遥先輩に向かって、遠くから声が飛んできた。


「遥!余計なこと吹きこむなよ!」


 隼人先輩だった。遥先輩は隼人先輩の言葉を受けて軽く肩をすくめてみせる。


「怒られちゃった」


 言葉とは裏腹に楽しそうにクスクスと笑っている遥先輩を見ていると、私はふいに胸の奥がズキンと痛んだ。


(え?なんで?)


 私がその痛みに疑問をもっていると、校舎からジャージ姿の強面こわもての先生がやってきた。3年生の体育の授業を担当している先生で、私たち1年生にはあまり接点のない先生だった。


「そろったかー?」


 先生は少しやる気のない声を私たちにかけた。私たちは自然と先生の周りに集合する。


「今日は軽く自己紹介してもらうぞー」


 じゃあ1年から、と言う先生の言葉に深谷くんが元気な声で自己紹介をしていた。続いて私も名前とクラスを言う。

 そうして自己紹介が終わった頃、


「今年も順番は、2年が最初、その次に1年で最後は3年だ」


 先生がリレーの順番を発表した。

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